海外放送事情

中国の“改革派”放送メディア

~湖南ラジオ映画テレビ集団の取組み~

中国の放送メディア界はこれまで、中国中央テレビ(CCTV)が唯一の全国向けテレビ局として君臨してきたが、1990年代後半からは衛星経由で地方テレビ局も1チャンネルを全国発信できるようになり、一部の先進的な地方メディアは全国的な存在感を高めつつある。中でも人気を誇っているのが中国南部の湖南省にある、湖南テレビを中核とする湖南広播影視集団(湖南ラジオ映画テレビ集団、以下、湖南集団と記す)である。湖南集団は娯楽関係を中心とした新機軸の番組づくりで知られる他、広告を扱う系列会社を中国のメディア関係では初めての証券取引所に上場したり、海外メディアとの提携に力を入れたりと、先駆的な動きが目立っている。

本稿では、中国で特に政府による規制が厳しい放送の分野において、進取の気性に富む“改革派”の放送メディアがどのような取組みを進めてきたのかについて、2005年10月の現地調査などをもとに紹介している。湖南集団が全国的に有名になった最大の理由は、特色ある番組づくりで、特に2005年に旋風を巻き起こした「超級女声」は、全国で4億人が視聴したと言われる大ヒット作となった。番組は一般市民から女性の参加者をつのり、その歌を審査して優秀者を選抜するというものだが、2005年の参加者は15万人にのぼった。決勝ラウンドでは視聴者が携帯電話のショートメッセージで良かったと思う選手に投票して1位を決める方式をとり、最終ラウンドの視聴率は11.97%(視聴シェアは39%)を記録した。湖南集団の劉恵東副社長は、経済発展のレベルが北京・上海などの大都会に及ばない湖南省のテレビ番組が全国的に評価されるようになった背景として、湖南の人には積極的に新しいものを取り入れようという気質があることと、CCTVのように首都に本拠地を置くメディアと比べ当局の監視体制が緩いこと、さらに湖南省は経済規模が小さいため広告市場も小さく、テレビ局が成長するには域外に市場を求めなければならなかったことなどを指摘した。しかし、中国ではもともと放送は、メディアの中で最も政府による管理が厳しい上、農民による暴動の多発といった社会情勢の不安定化に伴って、1年ほど前からメディア管理は一段と強化されている。2005年に全国的に話題を呼んだ「超級女声」は、2006年の放送許可をラジオ映画テレビ総局に申請中だが、2006年1月現在、まだ許可は出ていない。その理由として、「超級女声」では参加選手に対する携帯電話での「人気投票」を行ったことがネックになっているとの見方がある。歌手への人気投票は、いずれ政治家の人気投票に発展し、共産党指導部を困らせるかもしれないからだというのである。湖南集団が今後順調に発展できるかどうかは、中国の政治状況の推移にも大きく影響されそうである。

主任研究員 山田賢一