海外放送事情

アメリカ・ジャーナリズムと宗教

~「政教分離」と「表現の自由」の位相~

アメリカではいま、政治と宗教とメディアの関係はどうあるべきかという問題が大きな関心を呼んでいる。

アメリカ合衆国憲法は、アメリカ国民に保証する諸権利を明記した「権利章典」の筆頭に、「教会と国家の分離」(いわゆる「政教分離」)と並べて、「信教の自由」と「言論・出版の自由、集会・請願の権利」(いわゆる「表現の自由」)を掲げている。

「表現の自由」を標語とするアメリカの主流メディア・ジャーナリズムは、「政教分離」の原則のもと、伝統的に宗教をつとめて脱・政治的、中立的に扱ってきた。しかし問題は、ブッシュ大統領の言動や先の大統領選挙の際の「宗教票」の影響力に見られるように、政治行動が信仰と不可分に結びつく場合、政治と宗教の関係はどうあるべきか、メディアは宗教とどう向き合うべきかということになる。

この論考では、この問題をテーマにしたアメリカの公共放送PBSのドキュメンタリー番組や主要メディアの論点、視聴者や読者の声、メディア監視団体や各種世論調査の報告などをもとに、宗教をめぐるアメリカ・ジャーナリズムの問題を「政教分離」と「表現の自由」との関連で整理し、考察する。

第1章「政治と宗教」では、とくに9.11以降、宗教的表現を多用するブッシュ大統領の「宗教性」をめぐる議論や2004年米大統領選挙に見る「宗教票」の力、保守化を強める宗教界の動向などを概観する。第2章「メディアと宗教」では、メディア監視団体による調査報告から、アメリカのテレビニュースのなかで「宗教」がどう扱われてきたかを概観しつつ、宗教や合衆国憲法をめぐる世論の動向、アメリカの理念を脱・宗教的に語る「アメリカ的価値観」の現代的意味などについて展望する。

放送研究 主任研究員 永島 啓一