海外放送事情

台湾の公共放送拡充へ

~「公共テレビ」新会長に聞く~

台湾の放送界では、商業局が圧倒的な存在感を持っています。テレビでは、地上デジタル放送を含めて150近くあるチャンネルのうち、非営利の公共放送は2004年7月に始まった地上デジタルチャンネルを含め「公共テレビ」の3つだけで、視聴率も商業局の方が桁違いに高くなっています。これは国民党の長期にわたる一党支配時代にその影響下にあった3つの地上テレビ局や、1980年代に始まった自由度の高いケーブルテレビ局がいずれも商業局として運営され、「公共テレビ」の発足が1998年とかなり遅れたことが背景にあります。

台湾のメディア関係者によると、「公共テレビ」の放送は、番組内容のレベルには定評があるものの、一般の家庭が商業局の番組を視聴する習慣を確立したあとに始まったため、なかなか視聴率があがらず、また予算もNHKの200分の1程度と限られています。しかし最近は商業局の視聴率至上主義による番組の品質低下を問題にする声が有識者の間で高まり、公共放送の充実を求めるNGOの活動も活発化しています。このため台湾の行政院(内閣に相当)新聞局では、商業局ではあるが政府系持ち株比率が高い中華テレビ(約75%)と台湾テレビ(50%弱)について、少なくとも中華テレビは非営利の公共放送とする方針を固めたと言われており、両テレビ局の公共放送化の是非について2004年末に改選された立法院(国会に相当)での審議を求めることにしています。また、客家(はっか)や原住民といった台湾における少数派住民向けの放送や国際放送、ラジオ放送についても公共放送化して「公共放送グループ」を形成する構想があって、新聞局では近く有識者による公聴会を実施することにしており、グループができた際には中核をなすと見られる「公共テレビ」に注目が集まっています。本稿では、公共テレビの運営にあたる財団法人公共テレビ文化事業基金会の2004年10月の理事会で新会長に選出された陳春山氏が同年12月に来日したのを機に、台湾における公共放送の充実への過程や課題についてインタビューした内容を、解説を交えて紹介します。

メディア経営 主任研究員 山田賢一