海外放送事情

台湾における“少数派住民”向け放送

台湾ではここ数年、先住民など“少数派住民”向け放送の充実が図られています。

台湾の住民構成は「民族」の観点からすると、人口の大部分を占める漢民族と、人口の2%弱を占めるマライ・ポリネシア系の原住民(先住民のことですが、彼らは自らを「原住民」であると主張しています)の2つになります。しかし共通の言語や文化を持つ「エスニック・グループ」としてみた場合、漢民族はさらに 3つのグループに分かれます。人口の約70%を占める福?(ホーロー)人、戦後中国大陸から渡ってきた外省人、それに漢民族の中で独自の言語や文化を持つ客家(はっか)で、外省人と客家はそれぞれ人口の15%前後を占めています。このうちメディアにおいて何らかの配慮を要する“文化的少数派”に区分できるのは原住民と客家です。台湾では1980年代以降民主化が進む中で、少数派住民によるアイデンティティの主張が顕在化し、自らの母語や文化の保全のため放送チャンネルの確保を求めるようになりました。こうした要求は多文化主義を打ち出す民進党が2000年の総統選挙で勝利したこともあって、最近次々と実現しつつあります。客家関係では、毎日24時間客家語で放送を行なう「苗栗客家文化ラジオ」をはじめ、50のラジオ局が合わせて週1600時間に及ぶ客家語の番組を放送しており、2003年7月からは行政院(内閣)が計上した予算をもとに、ケーブルテレビの「客家チャンネル」もスタートしました。また原住民関係では、23のラジオ局が合わせて週200時間、原住民の母語による番組を放送、ケーブルテレビの「原住民チャンネル」も行政院の予算措置を受け、 2005年7月からの本放送を目指して、既にテスト送信が始まっています。しかし予算上の制約などから、番組の質の維持・向上に課題が残るほか、政府からの独立性の確保も懸案となっていて、政治的中立性で定評のある公共テレビにチャンネルの運営を任せるべきだとの議論も高まっています。本稿では、2004 年7月に行なった現地調査をもとに、最近拡充が進む原住民や客家向けの放送について紹介します。

メディア経営 主任研究員 山田賢一