海外放送事情

中国のインターネットと“反日”世論

~中国人ネット研究者の視点~

今年の夏に中国で開かれたサッカー・アジアカップでは、中国人サポーターの異常なまでの“反日”応援が問題になった。近年反日感情が高まった理由としてしばしば指摘されるのが、小泉首相の度重なる靖国神社参拝だが、中国でインターネットがここ数年爆発的に普及し、そこで限定的ながら一種の「言論の自由」の空間が成立していることの影響も無視できない。

中国人民大学新聞学科で博士号を取得し、現在東大大学院に留学中の (き・けいえい)氏は、今年8月、日本僑報社から出版した「中国のインターネットにおける対日言論分析」の中で、こうした言論について考察している。具体的には、「靖国神社参拝」と、中国の有名女優が旧日本軍の軍旗に良く似たデザインの服を着たことで激しい批判を浴びた「軍旗スタイル事件」について、中国共産党の機関紙「人民日報」と、人民日報系のネット「人民網」に設置されたネットユーザーの意見表明の場である「強国論壇」でどのような議論が戦わされているかを分析している。このうち靖国神社参拝では、人民日報が、参拝に反対する一方で日中友好は維持するという基本姿勢を示しているのに対し、「強国論壇」では、日本の参拝者に対して“人身攻撃的”な書き込みが目立つほか、中国政府の“対日宥和”政策への批判など、中国政府の手にあまるような内容が見られた。また、「軍旗スタイル事件」では、人民日報で全く報道がなかった一方、「強国論壇」では、「民族の尊厳と感情を傷つけられた」などと女優の行為に不満を持つものが9割近くと圧倒的多数を占めたという。祁氏は、2つの事例の分析から、ネットにおける“反日”言論の横行は、中国における政府と民衆のかい離、民衆からの圧力の増大といった、中国の国内問題としての側面も強いことを指摘している。

メディア経営 山田賢一