ことばの研究

ニュース報道における「名詞+です」表現について

~「イチロー選手が電撃移籍です」「尖閣諸島で新たな動きです」~

ニュース報道番組の中で,最近,「イチロー選手が電撃移籍です」「尖閣諸島で新たな動きです」など,文末を「名詞+です」とする見出し表現が,よく使われるようになっている。これは,ニュースの項目紹介など,主として番組の冒頭部分などで使われ,強いインパクトをともない新しい事実を伝える機能を持つ。本研究では,この独特の表現が,2つの要素が組み合わされることで成立していることを示す。ひとつは,本来なら文末で動詞を使うはずのところを,代わりに名詞を使い,強い「述べ立て」の働きを持つ「です」で文を締めるという点。もうひとつは,通常であれば,動詞述語文や形容詞述語文で機能する「中立叙述」(文全体が焦点となる)という形式が,「名詞述語文」の中で機能する特殊な構造を持つという点である。これが効果を生み、聞き手に対する強いインパクトへとつながる。この表現をめぐり,放送現場には,「インパクトがあり効果的だ」との声がある一方,「果たして,日本語として適切な表現なのか?」という疑問の声もある。放送(NHK・民放)での実際の例をもとに,この表現の「構造と機能」を探るとともに、放送でこの表現を使うには,どんな点に注意が必要なのか,その留意点についても示す。

メディア研究部 田中伊式