ことばの研究

調査研究ノート

音声表現から見る共通語の韻律理論

~『NHKアクセント辞典』改訂に向けて~

アクセントやイントネーションといったはなしことばの韻律については、近年音響分析の機器・ソフトの急速な普及により多様な研究が行われるようになったが、その解釈の前提となる基本的モデル(仮説)にはいくつかの異なる立場がある。それぞれの違いを見るとともに、「NHKアクセント辞典」の改訂にあたって編集の基本となる考え方を説明する。また、こうした基本モデルとの関わりを中心に、近年の共通語の韻律研究を概観する。

従来の国語学では、日本語のアクセントについては、拍(mora)ごとに高低の相対的な音程を指定し、その配置の型を考える見方が主流だった。一方、拍ごとの音程ではなく、音の上昇部分と下降部分に着目するアクセントのモデルもあり、共通語のアクセントは音の下降が重要であるとされるようになった。そしてこの観点をさらに進め、アクセントを音の下降に限定し、音の上昇部分は意味によって変化するイントネーションの一部とするモデルもあり、近年、意味とイントネーションの関係の研究だけでなく実践的な音声教育への応用という点でも適切なモデルとして再び注目されている。このため、次のNHKアクセント辞典では編集方針を改め、アクセントの表記は音程変化を表記するとともに、音の上昇の基本位置については、頭高以外の語以外は必ず2拍目から高くなるという従来の「法則」を廃し、2拍目が撥音、長音などの場合は1拍目から高くなるなど、より共通語の実態に即したものに変更することが決まっている。

このモデルを音声表現に応用すると、「その語に意味がある場合は上昇させる、意味がなければ上昇させない」ことが原則となる。また、上昇音調から始まる音のまとまり(音調句)を、意味のまとまり(句)と一致させることが「意味通りのイントネーション」ということになる。この上昇音調の変化のしかたは、従来の「プロミネンス」との関連や、「早上がり」「遅上がり」による様々なニュアンスの付加など、音声表現を考える上で重要である。さらに、大小の音調句の組み合わせが、大小の句のまとまり、すなわち意味のまとまりに関わると考えられる。このことは、日常会話よりも長く複雑な意味のまとまりを表現しなくてはならないニュースなどの放送表現について、その文体や適切な音声表現を考える上でも重要である。

(メディア研究部・放送用語 杉原 満)