ことばの研究

戦前の放送用語委員会における“伝統絶対主義”からの脱却

~1939年『決定語彙記録(一)』と当時の辞典類~

本稿では、日本放送協会が1939(昭和14)年に出した資料『放送用語調査委員会決定語彙記録(一)』について取り上げる。

この資料の記述内容の分析を通して、日本語の「音声標準語」が形成されようとする初期の段階においてどのような問題点があったのか、それに対してラジオ放送開始初期の「放送用語委員会」がどのような対応をし、それが日本語および放送の歴史の中でどのように位置づけられるのかなどを視野に入れながら考察を進める。

分析を通して、以下のようなことが明らかになった。

  1. 当資料の掲載内容に占める割合としては、以下の順で多くなっている。
    1. アクセントに関する問題
    2. 漢語の字音に関する問題
    3. 外来語の語形に関する問題
  2. この資料に載せられた漢語群(1,062項目)のうち、3割程度の項目に対しては、当時「読みのゆれ」があったことが確実視される。
  3. この「読みのゆれ」の存在が確実である漢語群(368項目)のうち、当時の放送用語委員会では4分の3程度の項目に対して「1つの読み」に統一する形での決定を下し、この資料に掲載している。
  4. 一部の語について、おそらく当時の辞書類の記述(言質「ゲンシツ」、杜撰「ズザン」、拉致「ラッチ」など)は実態(現実の発音)に追いついていなかったものと想像され、放送用語委員会では辞書類の記述とはある程度独立して決定を下した。

(メディア研究部・放送用語 塩田 雄大)