放送史

「口述」<「文書」ではない。

~オーラル・ヒストリーがひらく,放送史の新たな扉~

放送史研究はこれまで「文書資料」に基づいて事実関係を記述してきた。『20世紀放送史』などの「正史」(オフィシャル・ヒストリー)は、文書資料の欠如を補うため放送関係者から聞き取りを行って編纂されてきたが、その音声記録は当研究所に多数保存されている。本稿では、その貴重な「口述資料」を、「オーラル・ヒストリー」研究の方法論を用いてよみがえらせる方向性を示す。素材として利用できるのは、700件の証言である。証言の傾向から、「生」ドラマ時代の現場、放送における女性史、放送の国際化という3つのテーマが浮かび上がる。そこでテーマについて、正史がどのような記述をしているか、先行研究がどのような記述をしているかをレビューし、分析に入る。分析の際には、リサーチクエスチョンを設定し、「正史」との対比、証言が行われた「場」と「発話行為」とに注意する。「口述資料」の「信頼性」についても、文献を挙げて述べる。この研究が放送史の新たな扉をひらくと期待している。

メディア研究部 廣谷鏡子