調査研究ノート
「放送史」の過去・現在・未来
~次の「放送史」作成・編集への手がかりを探る~
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日本の放送事業が始まった1925年からまもなく100年、これを機に新たな「放送史」が編纂されることは想像に難くない。新たな「放送史」はどのような刊行物となるのか、また何を書くべきなのか、その手がかりを探る時期に来ている。
放送事業開始からわずか3年で刊行された『東京放送局沿革史』から、2001年の『二十世紀放送史』まで、日本放送協会は6つの「放送史」を刊行してきた。利益追求が目的である一般企業の「会社史」とは出発点が違うが、「放送史」もまた、企業の歴史を自らの責任で記述する点は同じである。
本稿では、歴代の「放送史」を以下の6つの視点から比較・分析した。第1に、事業の記録である「事業史」から社会とのかかわりも含めた「放送文化史」への展開、第2に、堅苦しい記述から読みやすさへの転換、第3に、「放送史」は読み物なのか、研究資料なのかという問題、第4に、部門ごとの記述にするか、全体を通した歴史とするかという、記述方法をめぐる葛藤、第5に、非売品と市販品との違い、第6に、技術革新に伴う、新たな情報媒体の導入に関する問題、である。
デジタル化、アーカイブ化の流れの中で、これまで書物の形態をとってきた「放送史」は、新たな形態へと変貌する可能性がある。デジタル情報の特性である、多くの人が同時に、膨大な量の情報に接することができる利点を生かして「放送史」はより可能性が広がるのである。
しかし、どのように形態が変わろうと、「放送史」の編集担当者は、自らの歴史観や放送文化に対する認識が新たな「放送史」に明確に表れることを肝に銘じておく必要がある。