放送史

<放送史への証言> 樋口秀夫さん(元NHK事業部長)

放送と視聴者をつないだ事業の仕掛け人30年の歴史

「放送史への証言」は、放送の発展に尽力されてきた方々へのヒアリングにより、放送の歴史をオーラルヒストリーで描き出そうという試みである。今回は、ラジオ時代、テレビ草創期から放送の発展期まで、約30年にわたって事業の現場ひと筋で、NHKと視聴者のつなぎ役に徹してきた元NHK事業部長樋口秀夫さんのお話を紹介する。

事業部門は、視聴者とのきずなを強めるためにさまざまな取り組みをしてきた。その中でも、2本柱である①「放送の普及のための番組の利用促進活動」と②「催し物の展開」を中心にお話を聞いた。

①放送の普及のための番組の利用促進活動

学校放送を教育に活用し豊かな人間性を育む「放送教育」を推進するため、学校の先生と一緒に、番組利用の基盤となる「全国放送教育会連盟(全放連)」を発足させた。全放連活動の集大成である「放送教育全国大会」は現在も毎年開催されている。

学校放送番組以外でも、教育番組、教養番組を活用し、放送をくらしに生かす「社会教育」活動を推進、『婦人学級』や『ラジオ農業学校』などの番組視聴を軸としてくらしの向上に役立てるためのグループを育成するなど、番組の利用促進活動を展開した。

②催し物の展開

NHKと地域社会の結び付きを深めるための取り組みである「総合催し物」をスタートさせ、市・区など全国の一定地域を対象に番組の公開や放送利用の集い、地域のニーズに応じた企画催し物などを総合的、集中的に展開した。

また、「NHK杯フィギュアスケート」を立ち上げたほか、NHK初の美術展である「アングル展」の実現、ブラジルへの『紅白歌合戦』の初の生中継など、現在にも大きな影響力を与えるような大きな催し物を実現した。

今日、デジタル化の進展により、インターネットや携帯電話やテレビの通信機能を利用した番組への参加など、視聴者と放送局の関係が大きく変化してきている。しかし、樋口秀夫さんの「デジタル化の時代でも、いやそういう時代だからこそ、生身の人と人が触れ合うことが求められています」という言葉は、至言である。

メディア研究部(メディア史) 柴田 隆