放送史

放送史資料 収集・保存・公開をめぐる課題

~歴史研究者やアーカイブ専門家は現状をどう見ているか~

近年、NHKアーカイブスなど過去の放送番組の保存・公開を行う施設の整備が進む一方で、放送文化研究所をはじめ、さまざまな団体・個人が所蔵する放送史関連の文書資料については、活用に向けた十分な体制が整っていない。このため、放送文化研究所では、メディア史やアーカイブズ学の研究者、それに実際に資料の収集・整理にあたっている3人を招いて資料活用に向けた議論を行い、今後の取り組みの方向性を探った。

議論には、東京経済大学コミュニケーション学部教授の有山輝雄氏(メディア史)、日本放送作家協会日本脚本アーカイブズ特別委員会副委員長の石橋映里氏、人間文化研究機構国文学研究資料館助教の加藤聖文氏(アーカイブズ学)の3氏が出席した(2011年7月、放送文化研究所で実施)。

このうち、放送史資料の収集について、有山氏は、NHKを含め放送事業者は公共的な責任と捉え、継続的に行っていくべきと主張し、加藤氏は、番組関連の資料や業務文書が体系的に移管・収集される仕組みづくりが必要だと指摘した。また、石橋氏は、脚本や台本の収集活動について紹介した上で、資料の収集・整理では、人材や資金の確保が課題になっていると述べた。

また、資料の公開・活用について、石橋氏は、個人情報保護や著作権の問題と資料の活用をどのように両立させるか検討が必要だと述べたのに対し、加藤氏は、個人情報保護の問題では法律を拡大解釈することなく、公益を重視して資料公開を進めていくべきという見解を示した。さらに、有山氏は、歴史資料の状況を体系的に把握し、活用するためには、放送関連の企業や団体が情報を共有する仕組みが必要だと指摘し、さまざまな組織が協力して資料の活用を図るべきという点で出席者の認識は一致した。

メディア研究部(メディア史)宮川大介・村上聖一
NHK放送博物館 磯﨑咲美