放送史

抽象化・バーチャル化するニュースのスタジオセット

~文研ワークショップ「テレビ美術研究:ブーメランテーブルは何を語る?」から~

3月15日、文研主催で行われたワークショップ「テレビ美術研究:ブーメランテーブルは何を語る?」では、ニュース・報道番組のテレビ美術について、過去から現在までの歴史的展開を振り返り(第1部)、現在起きているいくつかの変化から将来に向けた方向性や課題を見出していく(第2部)という順序で議論が進められた。このうち、第2部(報告とディスカッション)を中心に紹介し、あわせて、主要な論点の整理と今後の研究課題や研究の方向性についても探った。ディスカッション参加者は以下のとおり。パネリスト:山内祐二(テレビ朝日ベスト社長)、原研哉(グラフィックデザイナー、武蔵野美術大学教授)、岡部務(NHK映像デザイン部担当部長)、安川尚宏(NHK経済・社会情報番組部チーフ・プロデューサー)、司会:米倉律

ワークショップでは、現在のニュース・報道番組のテレビ美術にみられる3つの傾向―①抽象化するセット、②バーチャルセット、③チャンネルのトータルデザイン、についての報告を受けて、活発な議論が展開された。NHK『クローズアップ現代』、テレビ朝日『報道ステーション』などを例に、セットの抽象性についての美術デザイナー、番組制作者の議論に加え、グラフィックデザイナー・原研哉氏からは「デザインとはどうあるべきか」との貴重な提言があった。また、バーチャルセットの多用、非日常化・過剰化していくスタジオセットの現状に対しても問題提起がされ、これらの議論を通して、テレビ美術研究の今後の課題、方向性が見えてきた。

ニュースの内容を効果的に伝えることが一義的な目的であった報道番組の、テレビ美術に見られる近年の傾向は、機能主義的な高度化、表現技法上の洗練化の結果として理解することができるが、今後改善されていくべき部分も少なくない。また、近年のテレビ美術に「ポストモダニズム」の影響を見出すことができると考えれば、隣接する他の表現分野との関係性や比較においてもテレビ美術をとらえ直すことが必要であろう。さらに、「公共性」が高いとされるニュース番組に、一般の商品や製品と同様のマーケティングやブランディング手法が適用されている側面も見逃すことはできない。このように、現代のニュース・報道番組のスタジオ空間は、現代の経済、社会、文化といった各領域から生まれるさまざまな力学が複雑にせめぎ合う動態的な空間として把握されるべきである。こうした観点から分析していくことで、ニュース研究、ジャーナリズム研究に新たな光を与えることができるのではないだろうか。

メディア研究部(メディア史)廣谷鏡子
(海外メディア)米倉律