放送史

テレビ美術から見る「キャスターショー」の誕生と発展

~『ニュースセンター9時』と『ニュースステーション』のスタジオセット分析を中心に~

本研究は、スタジオセット、衣装、タイトル、グラフィックスなど、番組の映像表現に不可欠な要素である「テレビ美術」から、番組を分析・考察する試みである。従来の番組研究とは異なる角度から、テレビ番組の表現形態や技法の歴史、テレビの社会文化史展開にも新たな光を当てることを目的とする

1970~80年代の放送界を代表する「キャスターショー型」ニュース番組である「ニュースセンター9時」(NHK)、「ニュースステーション」(テレビ朝日)はどのように生まれ、また、その番組コンセプトが映像化、具体化されるうえで、スタジオセットはどのような役割を果たしたのだろうか。

74年にスタートした「ニュースセンター9時」については、初期の磯村キャスター時代と、後期の木村・宮崎キャスター時代を取り上げる。従来の新聞の手法からの脱却、「読む」から「語りかける」ニュース、「現場主義」といったコンセプトは、「スポーツや気象情報など専用のコーナー」「キャスター脇に置かれた電話」「ワーキングスタジオ」といったテレビ美術上の工夫によって具現化されていった。また、大きな事件・事故が相次いだ80年代半ばに登場した「ニュースステーション」は、「NHKに対抗できる、わかりやすく、人間くさい」ニュースをコンセプトに掲げ、「リビングも兼ねたキャスターの個人オフィス」という設定で、「本物」のテーブル、応接間、模型や人形といった小道具などによって、「キャスター型」ニュースショーに「寛ぎ」や「親しみやすさ」を持ち込んだ。

ともに「テレビらしい」ニュース番組を目指したこれら2つの番組には、ニューススタジオをより「本物らしい」空間にしようという設計思想においても、連続性が感じられる。と同時に、2つの番組が視聴者との間に作り出した「関係性」に、テレビ美術的な質的転換が見られるのも事実である。今後、この質的転換についてさらに考察を進め、これ以降の主要なテレビニュース番組についても分析対象としたい。

メディア研究部(メディア史)  廣谷鏡子
メディア研究部(海外メディア)米倉律