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日韓中テレビ制作者フォーラム,歴史認識の「ずれ」が改めて浮き彫りに

日韓中3か国の番組制作者らが一堂に会し,お互いの作品を視聴しながら意見交換を行う第14回「日韓中テレビ制作者フォーラム」が,9月15日から4日間,横浜で開催された。フォーラムでは3日目に上映された日本の出品作について,日本と中国・韓国との間の歴史認識の「ずれ」をめぐる問題が2013年に続いて表面化,議事進行が一時中断する事態となった。

問題視された作品は,NHK 広島放送局制作のドキュメンタリードラマ『基町アパート』で,戦争や広島のことをほとんど知らずに,東京から祖父が住む広島の基町アパートにやってきた小学5年生の少年が,戦争の痛み,平和の大切さを学ぶという内容である。少年の祖父は旧満州生まれの日本人で,戦後,孤児として中国で生き,日中国交正常化後,日本に帰国した人物という設定で,日本語の話せない祖父と中国語の話せない孫がしだいに打ち解けていくヒューマンストーリーとして描かれている。

ところがこの作品の上映後,中国や韓国の参加者からは,番組中の「満州事変」「ソ連侵攻」「原爆投下」などに触れた部分に関して,事実関係だけを列挙しており,これらがなぜ発生したのかについて何ら言及がないとする指摘が相次いだ。韓国の番組制作者からは,「日本は原爆で被害を受けたことを伝えるのには熱心だが,なぜ戦争が起きたのかという根本原因について今一度,考えてほしい」「中国の人との友情をテーマに交流をしようとする作品の意図はわかる。しかし,旧満州で戦争が起きたことについて,一方的に日本の立場に立って伝えている点が,韓国人や中国人としては違和感を覚える」といった発言があった。また,中国からの参加者も,「おじいさんはなぜあの地で子ども時代を過ごしたのかについての説明が一言もなかった。全体のストーリーも日本が戦争の被害者としてのみ描かれている」と語り,中国代表団は一時,共同の写真撮影を拒むなど,抗議の意思表示を鮮明にした。

事態の収拾に向けて,フォーラムの最終日に日本の「放送人の会」など3か国の主催団体の間で緊急の会合が持たれ,中国側は,「表現方法については様々な違いがあるが,今後,このフォーラムが3か国のテレビの発展に資するようなものになることを望む」と述べた。また,韓国側も,「こうした話をするのは心苦しいが,お互いを理解するための一つのきっかけになることを心から願う」と語った。

最後に日本側が,「一般の日本人の意識の中に,やはり被害者意識はあっても,加害者意識はないのではないかとの指摘については,フォーラムを通じて改めて意識した。日本の放送人の会としては,少なくともこれから韓国や中国など他国の悪口を言って日本国内をまとめていこうという勢力には断じて反対していく」と発言して,全体を締めくくった。

今回のフォーラムでは,植民地期の朝鮮半島における日韓両国の少年の交流を描いた作品をめぐって2013年に韓国側から批判が出たのに続いて,またも日本と中・韓両国との間に横たわる歴史認識のずれが顕在化したが,同時に,グローバル化時代における多様な視点の重要性について見直す機会ともなったと言えそうだ。

田中則広