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台湾,中国とのサービス貿易協定で「言論の自由」への懸念高まる

台湾では,2013年6月に中国との間で合意したサービス貿易協定の批准に反対する運動が起き,2014年3月には学生らによる立法院(国会)の一時占拠にまで発展した。4月に入ってからは,「言論の自由」の観点から,サービス貿易協定への反対論が高まっている。

中台サービス貿易協定は,医療・金融・印刷・建設など,サービス産業の幅広い分野について,中台が相互に市場を開放するもので,中国側が80分野,台湾側が64分野を開放するとされている。この問題について台湾では,主に中小企業が担っている理容などの業界への打撃が大きいとして反対運動が起きたが,与党国民党が批准を強行しようとしたため,学生を中心に多くの市民が立法院を3週間余りにわたって占拠,立法院長が協定の内容を監督する条例の制定や協定内容の逐条審議を受け入れることでようやく占拠が解除された。

この問題で,4月に入ってからは,中小企業の存続問題に加えて,特に印刷業と広告業の中国企業への開放が,台湾の言論の自由を脅かすとする懸念の声が高まっている。このうち印刷業に関しては,アメリカのリーダーズ・ダイジェスト社がオーストラリアの小説家の作品の英語版を中国で印刷しようとした際,作品の中に中国政府と対立する気功団体「法輪功」に関する記述があったため,中国の印刷所から該当部分の削除を要求されて応じたという事案が,台湾で衝撃を持って受け止められた。印刷業を中国企業に開放すれば,台湾での出版物の刊行にあたっても,同様の事態が起きて言論の自由に影響しかねないとの懸念である。また広告業に関しては,既に現在でも一部の“親中”メディアにおいて中国の各地方の投資環境の良さをPRする記事が氾濫し,中国からの金銭的対価があるのではないかと指摘されている状態で,広告業を中国企業に開放すれば,広告出稿を通じて中国による台湾メディアの“買収”に拍車がかかるとの懸念が出ている。

こうした中,4月9日には,政治大学放送学院の林元輝院長や台湾大学新聞研究所の洪貞玲所長ら20人の学者や著名人が共同で,台湾の言論の自由擁護のため印刷・広告の分野での中国とのサービス貿易自由化に反対する声明を発表し,同時に署名運動を開始した。また4月12日には,自由通信放送協会などが主催したサービス貿易協定に関する座談会で,世新大学の羅慧准教授が,「サービス貿易協定が発効すれば,出版物が仮に中国国内で出版されない場合でも,台湾の出版社がコストの安い中国の会社に印刷を委託すると,検閲を受け言論の自由はなくなってしまう」と危機感を訴えた。

こうした声に対し台湾の政府当局は,中国とのサービス貿易協定が発効しないと,アメリカ主導で進められているTPPへの加入も出来なくなり,台湾は国際貿易の面で孤立するなどと主張している。また中国政府も,既に双方が合意した協定の内容を部分的に見直すことには応じない姿勢を示しているため,馬英九政権は協定を無修正で批准するよう全力を挙げている。しかし,この中台サービス協定は,もともと調印前に台湾内部で十分議論されておらず,交渉内容が台湾の一般市民にとって“ブラックボックス”とされていたことが強く批判されており,今後の立法院での議論も難航が予想される。

山田賢一