メディアフォーカス

独連邦憲法裁判所,ZDF監督機関の政治的独立性を疑問視

ドイツの公共テレビ放送ZDF(第2ドイツテレビ)の設立法である「ZDF州間協定」が憲法違反だとする訴えについて,2013年11月5日,法律の違憲審査を行う連邦憲法裁判所で,関係者による口頭弁論が行われた。争点は,同法がZDFの監督機関のメンバーに多数の政府や政党の代表を指定していることが,公共放送に過度に政治的影響が及ぶことを禁じた憲法の原則に違反するかどうかである。法廷には,訴えを起こしたラインラント=プファルツ州政府とハンブルク州政府の代表,反対の見解の州政府代表,ZDF会長や監督機関のメンバーなどが招かれ,主張を述べた。

問題の発端は,2009年にZDFの内部監督機関の1つである管理評議会が,ZDF会長の意図に反して,正当な理由を挙げないまま,当時ZDF報道局長だったニコラス・ブレンダー氏の解任を決定したことである。ZDFでは局長クラスの重要人事の決定には,会長は管理評議会の5分の3以上の多数決による同意を必要とする。2009年11月,ZDF会長が翌年任期の終了するブレンダー氏の契約延長を提案した際,管理評議会で多数派のキリスト教民主同盟(CDU)のメンバー,特にヘッセン州首相だったローラント・コッホ氏が中心となって反対に動いた結果,同評議会はブレンダー氏の契約を延長しないとする決議を行った。

2000年から報道局長のポストにあったブレンダー氏は,政治的圧力に毅然と抵抗する公正なジャーナリストとして定評のある人物であるが,CDU側にとっては,融通の利かない厄介な人物として受け止められていた。この人事について,公共放送へのあからさまな政治介入だとして,ZDF内部の著名なジャーナリストたちが反対署名を行い,また新聞各紙も批判的な報道を行ったが,決定は覆らなかった。評議会の決定手続きは「ZDF州間協定」に則った合法的なものだったからだ。そこでSPD(社会民主党)が政権を握っていたラインラント=プファルツ州政府は2011年1月,多数の政府や政党の関係者を監督機関メンバーに定める「ZDF州間協定」自体が違憲だとして,違憲審査の申請を連邦憲法裁判所に提出,ハンブルク州政府もそれに続いた。

ZDFは全国放送を行う単一の公共テレビ機関で,全16州による共同設立であり,内部監督機関としてテレビ評議会と管理評議会が設置されている。テレビ評議会は主に番組内容や編成について監督を行い,ドイツ社会のさまざまな団体が派遣する代表計77人で構成されるが,うち16人が各州政府,3人が連邦政府,12人が政党の代表である。主に財務を監督する管理評議会は,州政府の代表5人,連邦政府の代表1人,テレビ評議会が選出する8名で構成される。政府・政党関係者の割合は半数以下に抑えられているようにみえるが,実は他の「非政治的」メンバーについても多くの場合は任命権が州首相にあること,また重要事項の否決には5分の2の票で足りること,さらには,評議会の内部で非公式に二大政党別のサークルが形成され,非政治的メンバーもどちらかに属し,事前の根回しをそこで行うことが慣習になっていることから,政治的な介入の余地は大きいとみられる。

憲法裁判所の口頭弁論では,こうした点について裁判官から鋭い質疑が出された。判決は2014年に下るとみられている。

杉内有介