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香港政府,無料テレビ免許を2社に交付へ世論は落選のHKTVを支持

香港特別行政区政府は10月15日,4年来の懸案であった無料テレビ免許の交付問題について,申請のあった3社のうち,旧City
Telecom系のHKTV(Hong Kong TV)を除く2社に免許を交付することを発表した。

香港の無料テレビ事業は従来,TVBとATVの2社で行われてきたが,ATVが弱体な中で事実上TVBが独占的な立場を確立,市民からはより多様な無料テレビサービスを求める声が高まっていた。そうした中,4年前に通信事業者のCity TelecomとPCCW,それにケーブルテレビ事業者のi-Cableの3社が相次いで無料テレビ事業の免許を申請,2年前には規制機関である放送業務管理局(BA,現CA)が3社全てに免許を交付すべきとの提言をまとめていた。ところが香港政府の最高意思決定機関である行政会議は,その後2年間免許交付の結論を出さず,事業者や市民の間からは不満の声が上がった。延期の背景としては, TVBとATVが香港の広告市場の小ささを理由に新規参入への反対を表明し,訴訟を起こしていたことがある。一方で香港のメディア関係者の間では,無料テレビ市場に新規事業者が参入すれば,競争が激しくなる中で,中国政府への嫌悪感が小さくない香港の人々の支持を得ようと各テレビ局の中国批判が強まるおそれがあるとして,中国政府が難色を示しているとの見方が多かった。

今回の香港政府の決定で,香港の無料テレビサービス事業者は2社から4社に増え,競争促進が期待されるが,商務・経済発展局の蘇錦梁局長は会見で,申請のあった3社のうち2社のみへの交付を決めた理由について,BAの提言や市場環境,それに市民の意見等の要因を考慮した結果としている。一方で記者達が繰り返しHKTVの落選理由を尋ねたのに対し,「行政会議の会合内容は機密にあたる」として公表を拒んだ。

HKTVが落選したことへの世論の反発は強く,フェイスブック上では発表の翌日の段階で,41万人がHKTVへの免許交付を求める意向を表明,HKTVも今回の行政会議の決定に対し,裁判所に司法判断を求める方針を示した。

2社の新規参入が決まったにもかかわらずHKTVの落選に対して失望感が高まった背景には,HKTVの王維基(Ricky Wong)会長が目指す香港のテレビドラマ振興への世論の期待がある。王氏は,香港のテレビドラマは20年前までは日本を除くとアジアナンバーワンだったが,その後TVBによる事実上の独占の中で創造性や品質が低下,今では韓国や台湾の後塵を拝していると指摘している。王氏は香港テレビ界のこうした低迷を自らの手で打破しようとテレビ事業に乗り出し,2012年にはCityTelecomの基幹事業だった長距離電話サービスとブロードバンドサービスを海外の投資会社に売却してまでテレビ制作に資金をつぎ込んでいた。

今回HKTVが落選した理由として,メディア関係者の間では,新興のHKTVが,既に有料テレビ事業を長期間手がけるi-CableやPCCW以上に放送界の秩序を揺るがす存在に映ったとの見方がある他,HKTVの王会長が,免許交付の結論を引き延ばす梁振英行政長官について「現実を理解しておらず,彼につける薬はない」などと酷評していたことが,長官の怒りを買ったとする見方もある。

山田賢一