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韓国,情報機関の問題を扱う番組が一時放送延期に

韓国では8月28日,北朝鮮の思想に共鳴する野党の統合進歩党が国家情報院の捜査を受け,内乱陰謀などの疑いで党関係者3人が逮捕されたが,この事件の直後に予定されていた,国家情報院の問題を扱うKBSの看板時事番組が,上層部の判断で放送延期となった。

これはKBS 時事制作局所属の『追跡60 分』制作チームが8月30日に明らかにしたもので,前日29日の会議で同局の局長から,31日に放送予定の特集『“ソウル市公務員スパイ事件”無罪判決の顚末』の放送延期を伝えられた。

問題の番組は,韓国国内に住む脱北者の名簿を北朝鮮に渡したとしてスパイ容疑などで起訴された,脱北者で元ソウル市公務員のユ・ウソン(劉宇城)氏を取り上げたもので,国家情報院は脱北者として韓国に入国したユ氏の妹への捜査の結果,ユ氏をスパイ容疑などで起訴したとしている。ところがこの妹は,後になって国家情報院から脅迫などを受けたため嘘をついたと供述を翻し,ユ氏は8月22日の一審判決で無罪となった。番組では,ユ氏の妹が事件で用いたUSBの購入場所とされる中国・延吉市を訪れ,実際には現地ではUSBを売っていないことを確認するなど,ずさんな捜査の実態を伝えていた。

放送延期の理由についてKBS時事制作局長は,同時期に統合進歩党の関係者が国家情報院に逮捕され,微妙な時期にあるためとしていたが,制作者側は「番組のテーマは統合進歩党の事件とは別の問題」と述べ,放送局の自主規制の問題点を指摘した。KBS労組や韓国PD連合会の強い抗議もあって,番組は1週間遅れの9月7日に放送された。

田中則広