メディアフォーカス

英BBC,番組制作と映像管理の完全デジタル化計画を断念

イギリスの公共放送BBCは5月24日,BBCの全ての映像素材をデジタル化して一括管理し,制作者がニュースや番組制作に必要な映像をいつでも簡単にPCで利用できることなどを目指した「デジタル・メディア・イニシアティブ」の推進を断念することを決めた。

デジタル・メディア・イニシアティブは,BBCの映像素材を全てデジタル化し,統合されたデータベースのもとで,映像の制作,管理,保存,移動をテープレスで一括して行うシステムの構築計画で,デジタル化の中核的事業の一つとして2008年に始まった。当初は,民間企業に委託して初年度にシステムを構築し,2014年度には全てに普及することを目標にしていたが,完成のめどは全くたたず,2010年からはBBCの内部チームが開発にあたってきた。これまでにかかった経費が9,840万ポンド(約150億円)に膨れ上がり,2011年には,会計検査院から,受信許可料に見合う事業なのか疑問視する意見が出されたが,デジタル化を積極的に進めてきたマーク・トンプソン元BBC会長は,事業の継続に固執してきた。

しかし,4月にマーガレット・サッチャー元首相が死去した際,BBCの新放送センターでこの仕組みが機能せず,素材のビデオテープをタクシーや地下鉄で運ばざるを得なくなるなど混乱を招いたことなどを受けて,トニー・ホール新会長が「この事業は,莫大な受信許可料を無駄に使っており,継続する理由はない」と5月24日,事業の中止を決断した。

BBCの監督機関であるBBCトラストでは失敗の原因を探る調査を始めた。

田中孝宜