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英BBCサビル問題で報告書 BBCの管理体制は「無秩序で混乱」

BBCの元司会者が数百人に上る未成年者に性的暴行を繰り返していたことを告発する番組を,BBCが放送中止にした問題を調査していた外部検証委員会の報告書が12月19日に公表された。報告書では,BBCにサビル氏への疑惑を隠ぺいする意図はなかったとする一方で,BBCの管理体制は機能していないと,厳しく指摘した。

この問題は,2011年10月に死亡した人気司会者ジミー・サビル氏の連続未成年者暴行疑惑を追及したBBC2の報道番組『ニューズナイト』の放送を直前になって中止したうえに,同時期にサビル氏の追悼番組を放送していたことが明らかになり,BBCの上層部が疑惑を隠すために現場に圧力をかけたのではないかとの疑念の目が向けられた。それに対しBBCでは,前会長のエントウィッスル氏が2012年10月,放送中止は「証拠が足りないことを理由にした編集上の判断だったが,誤っており,放送されるべきだった」と議会で釈明するとともに,第三者による二つの検証委員会を設け,調査に当たってきた。

その一つ,商業放送のスカイニュースの元責任者ニック・ポラード氏が率いる検証委員会では,『ニューズナイト』が放送を見送った経緯やBBC首脳部の対応に問題がなかったかを調べるため,1万点に上るBBC職員のメールのやり取りや関係する19人の職員への聞き取りなどを行ってきた。その報告書が12月19日公表され,焦点の『ニューズナイト』放送中止について「BBCの判断は間違いだった」としながらも,「サビル氏の追悼番組の放送を優先するためなど,不適切な理由によるものではなかった」としている。また,放送を取りやめるよう上層部から現場に圧力はなかったと結論づけた。

その一方で,ポラード報告書は「BBCはこの問題に対処する管理能力を完全に欠いていた。無秩序と混乱は当時認識されていたより根深く,指導力も不足していた」とBBC上層部のあり方を厳しく指摘した。具体例として,会長を辞任したジョージ・エントウィッスル氏がテレビ部門のトップだった2010年5月の段階で,部下の職員からサビル氏の「闇の部分」について警告メールを受け取っていたが,エントウィッスル氏はその意図するところを理解していなかったことを明らかにした。また,ヘレン・ボーデン報道局長も『ニューズナイト』がサビル問題を取材していたことを知りながら積極的に対応する姿勢を示さず,本来の責任を果たしていないとの判断を示した。

ポラード氏の報告を受けて,BBCのティム・デイビー会長代行は,職員向けにメールを送り,「サビル問題の番組が不適切な圧力によって見送られた証拠はなかったとわかり喜ばしい。しかし,BBCの組織や業務体制,決定の方法などに欠陥があるとした報告を受け入れる」と述べた。BBCでは,関係者の処分を発表し,サビル問題を「放送によるリスクの高い番組リスト」から外したミッチェル報道局次長が辞任し,放送中止を判断した『ニューズナイト』の編集長の別部署への異動が決まった。しかし,一時的に職務を離れていたヘレン・ボーデン報道局長はそのまま復帰した。

サビル氏による暴行事件については,もう一つの検証委員会が,BBCの内部慣行や企業文化の問題,BBCの児童保護や内部告発のあり方などを継続して調べており,2013年3月に報告書が出される予定である。

田中孝宜