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元BBC人気司会者が少女暴行常習犯疑惑追及番組の放送中止でBBCに厳しい批判

2011年10月に死亡したBBCの人気司会者ジミー・サビル氏が,長年にわたって多数の少女に性的な暴行を繰り返していた疑惑で,BBCが2011年末,サビル氏の犯行を追及した番組の放送を取りやめていたことがわかり,BBCに対する信頼問題にまで発展している。

この疑惑は,BBCの子供向け番組や歌番組などでお茶の間の人気者となり,2011年10月に84歳で死亡したジミー・サビル氏が未成年の少女に性的暴行を繰り返していたとされるもので,民放のITVが死後ほぼ1年経った2012年10月3日,『暴露:ジミー・サビルのもう一つの顔』と題した番組を放送したところ,被害を名乗り出る女性が殺到した。警察によると,被害者は200人を超える可能性があるという。

この疑惑をめぐっては,サビル氏による暴行現場の一つがBBCの社屋内であったにもかかわらずBBCの関係者が気付かないまま犯行が重ねられたとされることや,BBC TWOで放送される夜間の定時報道番組『ニューズナイト』で2011年12月にサビル氏の児童虐待疑惑を取り上げる予定で取材を重ねていたにもかかわらず,直前になって放送を取りやめたうえに,サビル氏の追悼番組を放送していたことが明らかになり,BBC内部のガバナンス(統治能力)のあり方が問題視されている。特に,放送していれば大スクープになっていたニューズナイトの番組が放送中止になった理由について,BBCは「証拠が十分ではなかった」ためとしているが,その後,追加取材をするのではなく取材自体を中断したことから,BBCの上層部が疑惑を隠すために現場に圧力をかけたのではないかとの疑念の目が向けられている。

事態を受けて,BBCでは10月22日, 自局の報道番組『パノラマ』でニューズナイトの取材者の証言などをもとに独自に検証番組を放送した。この中で,取材者から,ニューズナイトの放送中止の背景には上層部の圧力があったと考えているとの証言を紹介したほか,BBCのベテラン記者ジョン・シンプソン氏が「この50年来でBBC最大の危機だ」と述べた。

こうした中,BBCのエントウィッスル会長が10月23日,議会下院の委員会に召喚され,2時間にわたって証言した。ニューズナイトの放送中止に関してエントウィッスル会長は「証拠が足りないことを理由にした編集上の判断だったが,誤っており,放送されるべきだった」と釈明した。また,BBCに対する信頼そのものが揺らいでいるとの指摘に,会長は「BBCの文化や慣習がサビル氏の行為を許してしまった可能性があり,我々の信頼に疑問を投げかけられるのはやむを得ない」と述べた。

BBCでは,第三者による二つの検証委員会を設置した。一つは,スカイニュースの元責任者ニック・ポラード氏,もう一つは,英控訴院の元判事ジャネット・スミス氏が率いる。ポラード氏の調査は,ニューズナイトが放送を見送った経緯や,BBC首脳部の対応に問題がなかったかを調べ,12月をめどに結果をまとめる。また,スミス氏の調査は,サビル氏が働いていた当時のBBCの内部慣行や体制の他,BBCの児童保護や内部告発の指針が適切に機能していたのかどうかなどを調べる。さらにBBC自らも内部調査を進めており,その過程でセクハラや性的犯罪などに関わっていた可能性がある職員が複数いて,何人かについては警察の捜査が入っている。

田中孝宜