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存続危ぶまれるポルトガル公共放送

深刻な経済危機にあるポルトガルで,公共放送RTP(ポルトガル・ラジオ・テレビ会社)の存在が揺らいでいる。RTPは,地上デジタルテレビ2チャンネルとラジオ3チャンネルで全国放送を行っているほか,地域放送や国際放送も行う国内最大の放送事業者である。

RTPの2011年の年間収入は3億1,710万ユーロ(約317億円)で,その内訳は国民から徴収される視聴覚負担金が48%,政府から 交付金が28%,残りが広告収入などとなっている。政府の緊縮財政の下,交付金はすでに前年比26.5%減少しており,RTPは2011年にラジオ国際放送を休止するなど,経費削減に取り組んできた。

しかし,2011年6月に発足した社会民主党と民衆党による中道右派政権は,積極的に政府の財政再建を進めており,その一環としてRTPの民営化も含めた一層の経費削減策の検討に乗り出した。検討案の中には,テレビの総合編成チャンネルRTP1を民間に売却することや,子供向け番組などが多いRTP2は廃止すべきとする案も浮上している。そうした中,2012年8月に民営化に反対するRTPの会長が辞任し,9月にビール会社の元社長が新会長に就任するなど,民営化をめぐってRTP内部にも混乱が生じている。こうした事態に,国の内外から,公共放送を維持するべきだとする声や民営化は憲法違反だとの声が上がっている。

ポルトガルでは1992年に初めて商業放送局が誕生し,以来20年間公共放送と商業放送が併存してきたが,公共放送がその役割を終えて併存体制に終止符が打たれるのか,行方が注目される。

斉藤正幸