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韓国MBC,経営と労組の対立が泥沼化

韓国では,2012年に入ってから放送局のストライキが相次いでいる。イ・ミョンバク(李明博)政権下で政府・与党に有利な報道が増えたとして社長退陣などを要求して,2大放送局のMBCが1月,同じくKBSが3月,また,報道専門チャンネルのYTNも3月にストライキに突入した。なかでも,MBCのケースでは,会社側がストライキを理由として労働組合幹部の解雇処分を相次いで発表したため,処分の撤回を求めるストライキ参加者との間で深刻な対立が続いている。

MBC労働組合は,“公正な放送を取り戻すため,現政権から送り込まれたキム・ジェチョル(金在哲)社長の退陣を要求する”として1月30日からストライキを続けており,ストライキに賛同する部局長や部長など10数人も,“現社長と彼が作った会社の体制を守るためではなく,公共性の強いMBCを守るため”と主張して,管理職としての立場を捨ててストライキに参加している。

MBC経営陣は4月3日,ストライキを主導したとして,チョン・ヨンハ(鄭泳夏)労組委員長とカン・ジウン(康智雄)労組事務局長の解雇を明らかにした。MBC経営陣は,2月から3月にかけても,ストライキの主導を理由に記者会長と労組広報局長の2人を解雇しており,現社長の下でこれまでに解雇した従業員は6人となるほか,社長退陣を要求して管理業務を拒否した広告局副局長に停職3か月の処分を下すなど,計81人に懲戒処分を行った。こうした事態に対して,MBC記者会や映像記者会は「今後どれだけの解雇者が出るかは分からないが,経営の稚拙な脅迫に決して屈服しない」との声明を出している。

ストライキは放送にも多大な影響を与えており,人気バラエティーやドラマの放送延期などが相次いだ。また,4月11日の総選挙の開票特別番組にも影響を及ぼし,AGBニールセン・メディアリサーチ社によるとMBCの視聴率は4.4%で,4年前の総選挙開票時の視聴率9.1%の半分にも満たなかった。ストライキ参加のため,アナウンサーや記者の多くが開票速報に関わらなかったことが大きな理由と言われている。

ストライキによって深刻な労働力不足に陥ったMBCは,2月に,1年契約の記者などを採用したほか,4月以降も,記者やディレクターの追加採用募集を行っている。労組からは,契約職という立場の弱い人材を確保することで,現在の執行部が会社をコントロールしようとしているといった非難が出ている。

ここ数年,放送現場からは,現政権の意を汲んだ人物が,「落下傘(天下り)社長」として各放送局のトップに就任し,その社長が現政権に忠実な人々を幹部に任命して,取材方針などに介入させているとして,不満の声が上がっていた。こうした不満は,大統領選挙が実施される2012年,ついに,ストライキという形で表面化した。これに対して,解雇や懲戒処分などの強硬姿勢で対抗するMBC経営陣に対しては,メディア研究者の中から,「対話による解決を」「社長は現場の声を聞いて,責任ある姿勢を見せるべき」などといった意見が相次いでいる。また,政界においても,野党のみならず,与党セヌリ党からも,「落下傘社長」の辞任を求める声が高まっており,放送の正常化に向け,政界全体の関心事になっている。

田中則広