メディアフォーカス

中国,メディアが「道徳英雄」キャンペーン

中国では3月,50年前に死去した軍人を「道徳英雄」として称えるメディアキャンペーンが本格化した。「雷鋒に学べ」というこのキャンペーンは,1962年に死去した共産党員の軍人の雷鋒氏が生前積んだ善行を紹介し,市民の道徳意識を高めようというものである。キャンペーン自体は昔から毎年3月に行われていたが,近年は「雷鋒おじさんは3月に来て4月に帰る」と揶揄されるなど,その空洞化が問題になっていた。しかし2012年は,例年になく各メディアとも力を入れ,中国中央テレビ(CCTV)は2月25日から3月5日まで連日,関連のニュースを報道,鉄鋼会社の労働者で20年間に総計60リットル分の献血をした郭明義氏など,「現在の雷鋒」も数多く紹介している。

こうしたキャンペーンの背景には,2011年10月,広東省で「悦悦ちゃん」という女児が車に轢かれて死亡した際,18人の通行人が誰一人女児を助けようとしなかったことが明るみに出るなど,最近の中国で道徳観念が著しく低下したことがあると指摘されている。同月開かれた中国共産党中央委員会総会では「道徳の再建」などを掲げた決議を採択,これを受けメディア関係では,テレビ局の娯楽番組や広告放送の制限が強化されていた。

しかし当局のお仕着せによる「道徳英雄」キャンペーンの効果には疑問の声が少なくない。著名なブロガーのマイケル・アンティ氏(本名趙静)は,中国共産党は支配の正統性が揺らぐとこうしたキャンペーンに頼るとした上で,現在既存メディアよりも若者に利用されている“中国版ツイッター”のウェイボー(微博)の中で,雷鋒は話題になっていないと指摘している。

山田賢一