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仏監視機関,衛星放送カナル・プリュス5年前のライバル社買収承認異例の撤回

フランスの公正競争監視機関は,衛星放送最大手のCanal+(カナル・プリュス)社によるライバル社TPS(Télévision par Satellite)の5年前の買収の承認について,条件として結んだ多くの誓約にその後違反があるとして9月21日,承認の撤回と3,000万ユーロ(約33億円)の罰金の科料を言い渡した。

有料の衛星放送7チャンネルを持っているTPSは, 商業放送最大手のTF1が株式の66%を保有し,映画やサッカーの放送権獲得でCanal+とライバル関係にあったが,2006年7月,Canal+社による買収が承認された。この際,公正競争監視機関は,Canal+社が独占的なふるまいをしたり,TPSの契約視聴者が満足なサービスを受けられなくなったりしないよう,59項目に及ぶ誓約を承認の条件として結んだ。

今回,その承認を取り消すとした理由について公正競争監視機関は,「2007年3月に新しいCanalSat衛星を打ち上げた際,TPSの契約視聴者を意図的にCanal+社との契約に誘導し,契約者がADSL回線のインターネットテレビなどに向かうのを妨げた」,「TPSのチャンネルでは映画やスポーツの質が低下し,もはや契約視聴者を惹きつけるプレミアムチャンネルではなくなっている」など10項目の誓約に対する違反をあげている。これに伴い3,000万ユーロの罰金も科した。

5年が経過して承認を撤回したことについて公正競争監視機関は,「誓約違反が次第に蓄積し,我々が欺かれていたことに気付いたのは近年のことだ」と説明している。ただ,Canal+社側が1か月以内に,今後の5~6年間の経営について改めて新たな誓約の申請を公正競争監視機関に提出すれば,交渉の余地は残っているとしている。

これについてCanal+社は「5年も経過したことを,蒸し返すのは考えられないことだ。当時と今のメディア事情も違う」として,決定の取り消しを求める訴えを最高裁判所にあたる国務院に起こすとしている。

一方,Canal+社は9月8日,地上デジタル無料チャンネルの「Direct8」と「Direct Star」の2チャンネルの経営権を獲得したと発表し,広告収入で運営する無料テレビ事業にも参入することを明らかにした。これは,有料・無料の双方でテレビ事業を拡大強化することによって,Google,Apple,Netflixなどアメリカのネット企業によるフランスのテレビ市場への参入に備えるためだとしている。ベルトラン・メウー社長は「無料テレビの市場に参入することによって,質の高い独自コンテンツの制作力を強化し,それをわが社の持つすべてのメディアで提供していく」と述べている。

こうしたCanal+社の動きについて日刊紙フィガロは,「5年前のTPS買収の際は,電気通信事業者による衛星テレビ事業への参入の脅威をあげ,今回の買収では,Google TVなどネット事業者の襲来の脅威をあげていて構図は同じだ」と解説している。

一方,公正競争監視機関は今回の買収について,TPSの場合と同じように,テレビ事業の市場において公正な競争の状況であるか検証するとしている。地上デジタルの無料チャンネルについてはライバルのTF1が去年TMCとTN1の2つの局を買収している。

新田哲郎