メディアフォーカス

米ハリケーン「アイリーン」災害 ソーシャルメディアを減災に積極活用

災害時のソーシャルメディアの役割が注目される中,アメリカ東海岸に8月末,大型ハリケーンが上陸した際,防災情報の伝達にソーシャルメディアが積極的に活用され,「減災」のための有効なツールとして評価を受けた。その一方で大々的に放送を行ったテレビ局の災害報道については厳しい声が相次いだ。

8月27日から28日にかけて上陸したハリケーン「アイリーン」は,2005年に1,800人の犠牲者を出した「カトリーナ」並みの強い勢力でニューヨークなど大都市を直撃する進路が予想され,オバマ大統領も「過去最大規模の災害になるおそれがある」と警告し,230万人に避難指示が出された。

6年前の「カトリーナ」災害では,政府の危機管理のまずさに批判が集中したが,その後,FEMA(国土安全保障省・連邦緊急事態管理庁)を中心に対策の見直しが行われた。その重要な柱がソーシャルメディアで,今回FEMAは地元自治体と連携し,ソーシャルメディアの活用を進めた。

今回,「アイリーン」に備え37万人が避難するなど最大級の警戒態勢をとったニューヨーク市では,ハリケーン用の特設サイトを立ち上げ,最新状況の提供や市民への行動の呼びかけを行った。また,市民自らが身近な被害の情報を書き込めるようにした。ニューヨーク市のサイトにはアクセスが殺到し,一時回線がダウンしたほどである。防災情報は,フェイスブックやツイッターでも逐一発信が続けられた。市長の「ハリケーンはピークが過ぎた」という収束宣言については,6万2,000世帯が停電していた中で,多くの市民がネットでその情報を得ていたとされる。

「アイリーン」は,各地で河川の氾濫,住宅の浸水被害などが出て20人を超える人が亡くなったものの,FEMAや各自治体の的確な情報提供は評価され,災害後,メディアに前向きに取り上げられた。

対照的なのが,テレビ局の災害報道である。多くの放送局が,コマーシャルを飛ばし,長時間にわたって大規模な体制を組んで臨んだが,「テレビは騒ぎすぎだ」,「本当に減災に役立ったのか」との厳しい指摘がなされた。刻々と変わるハリケーンの影響や被害の最新状況を映像で追うのに限界があったことや熱帯低気圧に変わった後も過度に警戒を呼びかけ続けたことなどに違和感を持った人が多かったようである。

FEMAは,防災情報の提供にあたって放送局と連携する姿勢は変わらないとしながらも,ソーシャルメディアを通して双方向で多様な情報伝達ができる点を重視し,「市民は災害対応チームの一員であり,被災地に住む市民が持つ情報を災害対策に役立てたいと考えている」として,市民を単なる情報の受け手ではなく貴重な発信源と位置付けて,ソーシャルメディアのさらなる活用を検討している。

テレビの役割については,公共放送や商業放送局で作る団体が8月末,災害時にネットが飽和状態になったことをふまえ,「地域のテレビ放送は極めて重要な情報源である」とし,携帯端末で見られるデジタルテレビなどが非常時に重要な役割を果たせると主張した。

いざという時,行政と市民が,また市民同士がソーシャルメディアを使って直接つながる中,既存のマスメディアの災害報道はどうあるべきなのか,改めて問われている。

田中孝宜