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テレビアナログ放送終了 全国44都道府県でデジタルに移行

東日本大震災の被災地である岩手,宮城,福島の3県を除いて,全国44都道府県で地上波テレビとBSテレビのアナログ放送が2011年7月24日一斉に終了し,デジタル放送へと切り替わった。被災地3県も12年3月31日にアナログ放送が終了する。

7月24日は,各局とも正午に通常番組の放送を終了し,アナログテレビの画面は放送終了を告知する静止画面となった。各局とも同日24時までに停波し,アナログテレビは地上波58年間,BS22年間の歴史に幕を閉じた。NHKの調査によると,被災地3県を除いてデジタルテレビ放送に対応していない世帯は11年6月末現在で約29万世帯あった。

デジタル放送が受信できない世帯,いわゆる「地デジ難民」をできるだけ少なくするため,7月24日に向けて総務省と放送局,家電メーカーなどが協力して集中的な取り組みが行われた。テレビ画面での告知放送や,相談窓口である地デジコールセンターの体制を強化するとともに,全国の市町村約1,600か所に設置したテレビ受信者支援センター(デジサポ)では2万2,000人が電話対応や戸別訪問を行った。さらに,駆け込み需要による機器不足に対応するため,簡易チューナーを無料で貸与するなどの対策が講じられた。

テレビ画面での特別周知に対する苦情など一部に批判もあり,アナログ放送が終了した24日正午から25日の夜10時までに総務省やNHKなど放送局への問い合わせ件数はあわせて約21万件にのぼったが,総務省によれば想定の範囲内とのことで大きな混乱はなく,アナログ放送が停止し,テレビはデジタル放送に切り替えられた。

中継局の設置や機器の切り替えなどで,放送局が負担した経費はNHKが約4,000億円,民放局(127社)が約1兆円であった。

政府は,地上放送のデジタル化は高品質の画像や音声を実現し,インターネットと連携して新たなサービスを産み出し,移動機器での鮮やかな映像を可能にするなど視聴者の利便性を向上させる一方,デジタル化で空いた周波数帯域を様々な分野に開放することで,新たなサービスが可能になるとしてデジタル化政策を推進してきた。

ここまでの主要な経緯を記録しておく。

  • 1998年10月 郵政省(現総務省)の「地上波デジタル懇談会」が,2000年から関東でデジタル実験放送を開始し,アナログ放送は2010年終了を目安にするなどの最終報告を発表した。
  • 2001年7月 総務省が「放送普及基本計画」とアナログ周波数の使用期限を明記した「放送用周波数使用計画」の各一部変更を告示。地上アナログテレビ放送は2011年7月24日に終了することになった。総務省,NHK,民放局が「全国地上デジタル放送推進協議会」を設立した。
  • 2001年7月 総務省が「高度テレビジョン放送施設整備促進臨時措置法」に基づき,支援事業第1号として,静岡放送の放送施設整備事業を認定した。
  • 2003年8月 デジタルへの転換による不利益には補償が必要であり,デジタル放送用のアンテナやチューナー等の費用は政府が負担すべき,国民の理解を得るため徹底した周知広報が必要との国会での質問に対し,小泉総理大臣が,移行に係る経費については国が補償又は負担する義務はない,周知広報については総務省,放送事業者,家電メーカーと販売店,マスコミなどが参加する「地上デジタル推進全国会議」で取り組む,などを内容とする答弁書を衆院議長宛に提出した。
  • 2003年12月 関東,中京,近畿の3大広域圏でデジタルテレビ放送が開始された。
  • 2006年12月 全都道府県の全放送事業者がデジタルテレビ放送を実施した。
  • 2007年12月 約4,330万世帯( 全世帯の92%)が放送エリアとしてカバーされた。
  • 2008年6月 総務省が生活保護世帯を対象に簡易型の地デジチューナーやアンテナの現物支給,アナログ専用の共聴施設を設置している都市部の高層ビル所有者や管理組合に共聴施設の設置・改修に助成金を支給する方針を決定した。
  • 2010年3月 「地デジ難視対策衛星放送」が開始され,やむをえない事情により地デジ放送に対応できない世帯の一時的利用が可能となった。
  • 2010年7月 デジタル化モデル地区の石川県珠洲地区で,全国に先駆けてアナログ放送が打ち切られデジタルに移行した。
  • 2010年9月 総務省調査で,地デジ受信機浸透度は90%にとどまることが判明した。
  • 2011年3月 一部のジャーナリストや弁護士らが「地上アナログ放送の終了延期=地デジ難民のゼロ化」を求める声明を出した。
  • 2011年6月 電波法特例法が成立し,被災地3 県でのアナログ放送停止が最大1年間延長された。
  • 2011年7月 電監審が地元局の財政負担を考慮し,3県のアナログ放送停止を12年3月31日とするよう答申した。

奥田良胤