メディアフォーカス

看板番組に「やらせ映像」 ~信頼ゆらぐBBC,放送で謝罪~

BBCの看板番組『パノラマ』枠で放送され,高評価を受けたドキュメンタリー番組について,監督機関であるBBCトラストは,「一部の映像が本物でない可能性が高い」として,6月16日,BBCに謝罪放送を行うことを命じた。

この番組は,2008年6月に放送された1時間のドキュメンタリー“Primark:On the Rack”で,イギリスの大手ファッション小売チェーン,プライマーク(Pri mark)が低価格の衣服を製造できるのはインドで児童を労働力として使っているからだと,覆面取材の映像をもとに批判的に報じた。しかし,その後,証拠として放送された,3人の子どもたちが劣悪な環境の中で作業をしている映像の真偽が問われることとなった。

番組を受けて,同社製品の不買を呼び掛けるデモが行われるなど,プライマークには多くの抗議が寄せられたが,同社は,児童労働の事実を否定し,取材したジャーナリストが子どもたちに演技させただけだと主張して,BBCに苦情を申し立てた。

BBCでは,苦情処理の手続きに従って,部内調査を行い,まず同番組の責任者,次に番組苦情処理室(the Editorial Complaints
Unit)が,やらせを否定する趣旨の回答をした。しかし,プライマークは納得せず,独自にインドの撮影現場を調査し,やらせを裏づける事実が見つかったとして,2010年4月,今度は,監督機関のBBCトラストに不服を申し立てる上訴を行った。

この番組を取材したのがフリーランスの外部ジャーナリストだったこともあり,取材過程や手法の正確な把握が困難な中,BBCトラストは,専門調査員をインドに派遣して,関係者に聞き取りを行い,素材テープや取材者のメール内容なども詳細にチェックした。

そして6月16日,最終報告書が発表され,BBCトラストは,確固たる証拠はないものの「映像が本物でない可能性のほうが高い」として,やらせの可能性を認めた。その根拠として,子どもたちが持っている針の太さが商品に合わないことや同じ商品がわずか一日で遠く離れた別のロケ地で撮影されていて不自然なことなど,矛盾点や疑問点を指摘した。

ただ,報告書では,疑惑の45秒間の映像は「本物でないと考えるほうが理にかなっている」としながらも,プライマークが衣服の製造過程で児童を労働力として使っているとする番組内容については否定していない。その上で,BBCの看板番組には「最高レベルの基準が求められる」として,外部委託であっても,BBCの倫理規定に則って「正確」で「公平」な取材を行うことや,取材過程の「説明責任」がBBC側にもあることを強調している。

取材した外部ジャーナリストは,今もやらせの事実を認めていない。

プライマークは,「BBCは偽りの事実をもとに番組を制作し,何百万という人々を騙した」と声明を出し,BBCが否を認めるのに3年もかかったことも非難している。

BBCでは,6月20日,放送でプライマークと視聴者に対し謝罪の意を表明するとともに,プライマークのホームページに謝罪文を掲載し,さらに同番組が権威ある「王立テレビ協会」から受けた賞を返還した。BBCでは,近く再発防止策をまとめる。

田中孝宜