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米公共ラジオの会長が辞任

NPR(全米公共ラジオ)のビビアン・シラー会長兼CEOは,幹部が保守派の茶会(Tea Party)賛同者を“人種差別主義者だ”などと発言した責任をとって3月9日,辞任した。

NPRの基金担当の役員は,共和党員の映像作家J・オキーフが仕組んだ偽のイスラム教慈善家との会合で「個人的見解だが,共和党は人種差別主義者に乗っ取られた。NPRは政府からの補助金を受けなければ,もっと自由に活動できる」などと発言した。その様子を隠し撮りした映像がネット上で公開されたことから,この幹部は辞任に追い込まれた。以前から米国内の共和党勢力は,PRの報道内容がリベラルに偏向しすぎていると批判し,政府から補助金を出すことに反対していた。今年2月には共和党が多数派となった連邦議会下院で,公共放送への補助金をカットする議案が可決された。NPRをめぐっては昨年10月に,イスラム風の人と飛行機に乗り合わせると不安を感じると述べた保守系の解説委員が即時解雇されたことに共和党から厳しい批判が起こり,報道担当の副会長が辞任している。

シラー氏は2009年1月に会長に就任し,赤字だったNPRの経営を立て直す一方で,コンテンツのデジタル展開を大胆に進め,新聞・放送の多くのメディアで利用者が減る中,NPRはリスナー数,ホームページへのビジター数ともに増加していた。シラー会長の辞任はNPRに対する一連の批判を早期に鎮静化するためとみられているが,報道と基金の責任者に加え,組織トップが不在となったことから,“逆風”にさらされるNPRを今後,誰が,どのように舵取りするか注目される。

柴田 厚