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拉致被害者「生きていない」発言訴訟取材源秘匿は重要な社会的価値

田原総一朗氏が2009年4月のテレビ朝日の討論番組で,拉致被害者の名前をあげて「外務省も生きていないことは分かっている」と発言したのに対し,被害者の両親が慰謝料を請求している訴訟で,神戸地裁が取材時の録音テープの提出を命じたのに対し,大阪高裁(安原清蔵裁判長)が取材源の秘匿は重要な社会的価値があるとして,テープの提出は必要がないとの判断を示した。

神戸地裁の審理で,田原氏は発言の根拠として外務省幹部に取材した際の録音テープの一部を文書にして提出したが,拉致被害者の両親がテープそのものの提出を求めた。神戸地裁は,田原氏がテープの一部を文書化したことで秘密を守る利益を放棄したと判断し,10年10月にテープは民事訴訟法で提出義務がある「訴訟で引用した文書」にあたるとして田原氏に提出を命令した。田原氏は,取材源の秘匿ができなくなるとして即時抗告した。

安原裁判長は11年1月20日,テープが提出されれば取材源が特定される可能性が高いが,取材源は自らが特定されない前提で取材に応じ田原氏も開示しないと約束している,田原氏は秘匿義務に反しないと判断した部分を抜粋して文書を作成したと認められるので今回の文書は「訴訟で引用した文書」にはあたらない,さらに報道の自由とともに取材の自由も尊重に値するもので,取材源の秘匿は重要な社会的価値がある,として神戸地裁の提出命令を取り消した。

この決定に対して,両親側は不服申し立てをしなかった。

奥田良胤