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英BBCトラスト,受信料額の据え置きを提案

イギリスの公共放送BBCを監督するBBCトラストは9月16日,カラー料金145.50 ポンド/白黒料金49ポンドの現行の受信許可料について,2011年度と2012年度の2年間は据え置きすることを政府に提案した。政府は,この申し出を歓迎したが,2012年度の料額については,今後の新たな取り決め交渉まで判断を先送りした。また,この発表に先立ち14日には,BBCトラスト会長のマイケル・ライオンズ卿が1期目の任期が終了する2011年4月に退任し,再任を望まない意向を政府に伝えたことも公表された。

BBCは現行特許状期間(2007年から2016年末),受信許可料を主要財源とすることが保障され,2007年度から2012年度までの受信許可料額については,BBC の事業計画を基に財源規模を確定し,それを保障するための受信許可料の値上げが取り決められていた。この取り決めによると,2011年度はカラーが 148.50ポンドへ,白黒が50ポンドにそれぞれ値上げされる予定だった。こうした取り決めは,政権交代があっても変更されないという不文律があり,それがBBCの政治的独立を象徴してきたと言える。しかし,2008年以降世界的な経済不況からの回復の兆しも見えないなか,5月に発足した現政府はさまざまな機会をとらえ「BBCはほかのみんなと同じ地球の住民でなくてはならない」「政府機関が25%削減することを認識すべきである」など,BBCによる自発的な据え置き提案を促すような発言を続けていた。

BBCが過去に例のない自発的な受信許可料の据え置き提案を行った背景には,まず第1に現行政府の最優先課題が財政支出の大幅な圧縮であり,このため政府関連組織の統廃合の検討が進んでいる状況がある。BBC 報道が入手した官邸資料によると(2010年8月26日付),「公的機関の改革(Public Bodies Reform)」では,廃止は180 機関,他の組織との統廃合は124機関,大幅な改革を条件とした維持は56機関,そのまま維持は282 機関,見直し実施中が100機関だった。つまり,8月の時点では,公的機関の24%が廃止,これを含め約半数の公的機関に大規模な改革が必要とされている。BBCは,チャンネル4やオリンピック実施委員会,大英図書館と並んで「原則維持」に分類され,独立規制機関のOfcom(Office of Communications)には郵便事業の監督機関Postcomの合併があげられている。また,国際放送のBBC World Serviceは「検討中」に分類されているが,政府の25%削減方針を受け,政府に先駆けて削減案を提示しない限り閉鎖される部門も生じると危機感を募らせていることが報道された(The Independent 2010年7月13日)。

こうした政権交代後の政治状況のなかで,政府自身が値上げの取り決めを取り消すなら,それは公共サービス放送への政治的介入であるという問題を引き起こすおそれもあり,BBCは再三出された政府のシグナルを受け止め,受信許可料の据え置きという譲歩を自ら示し,新たな受信許可料交渉に備えるという政治的判断を下したと考えられる。しかし,執行役員会は,この据え置きにより,2年間に1億4,400万ポンド(約190億円)の資金不足となり,番組に影響を与えるという見通しを示したと言われ,どのような対策を講じるのか注目される。

中村美子