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通信・放送法体系を60年ぶりに見直し放送法などの改正案を通常国会に提出

政府は,デジタル化の進展に伴う通信・放送の融合に対応できるよう法体系の見直しを図るとして,現在8つある関連法を4つの法律に再編する放送法などの改正案を閣議決定し,3月5日,国会に提出した。通信・放送法体系の抜本的な見直しは,1950年の放送法・電波法の制定以来,60年ぶりとなる。

通信や放送に関する法律は現在,テレビや電話といった業態を軸とした体系となっているが,放送と通信の垣根が低くなるなか,このままでは新たなサービスに対応できなくなるとして,総務省は2006年以降,有識者研究会や情報通信審議会の場で法体系見直しの議論を行ってきた。今回の改正案は,その検討結果に従って,8つの関連法をコンテンツや伝送設備といったレイヤー別に,放送法(コンテンツ規律),電気通信事業法(伝送サービス規律),電波法,有線電気通信法(伝送設備規律)の4つに集約し,制度の整理・統合を図った。

具体的には,現在の免許制度で通信や放送といった特定の用途に限定されている無線局の利用に関して,一つの無線局の免許で放送と通信の両方を行うことができるようにし,例えば,テレビ局が放送を出していない時間帯に,その電波を通信用に使うことを可能にする。また,これまでハード・ソフト一致が定められていた地上放送について,放送の業務(ソフト)と無線局の設置・運用(ハード)を分離することを選べるようにした。これによって,ローカル局どうしで放送設備を共有して,経営を合理化するといったことが可能になる。

ただし,地上放送の場合,ハード・ソフト分離によって,従来の無線局免許に加えて,放送業務についての総務大臣の認定手続きが追加されることから,番組内容への行政の介入が行いやすくなるとする懸念が放送業界から示されていた。このため,今回の改正案では,地上放送に関してハード・ソフト一致の経営を希望する場合には,ハード部分の免許のみで放送を行える制度も残すこととなった。

一方,規制が強化される部分もある。放送については,従来の区分が整理され,地上放送やBS放送などからなる「基幹放送」とそれ以外の「一般放送」の2 つに大くくり化されるが,前者のうち,総合編成を行う事業者については,教養・教育・報道・娯楽といった番組種別ごとに放送時間の公表を義務づけることが盛り込まれた。これは法体系見直しの議論の過程で,いわゆるショッピング番組の増加が指摘されたことが背景にある。

このほか,複数の放送局への出資を制限しているマスメディア集中排除原則(省令)について,基本的な部分を法定化するほか,改正案の附則には,同一資本が新聞社やテレビ局を支配するクロスオーナーシップの規制について,3年以内に検討を加えることも追加している。ただし,前者の出資比率の上限については,10分の1から3分の1の範囲で省令で定めるとしており,具体的な内容については省令に委ねられた。また,改正案には,NHKの経営委員会のメンバーに新たにNHK会長を加えることなどが盛り込まれた。

政府は,通常国会での法案成立を目指しているが,メディアの資本規制の問題など今後の議論に委ねられた部分があり,法改正が放送・通信にどのような影響を与えるかについては不透明な部分も残る。

村上聖一