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米グーグル,中国市場からの“撤退”を表明

アメリカのネット検索最大手グーグルは3月22日,中国本土で展開するネット検索サービスから撤退し,今後中国からのアクセスについては,グーグル香港のサイトに転送する方針を明らかにした。

グーグルは「悪いことには手を染めない」という創業者の哲学で知られているが,2006年に中国市場に参入した際には,民主化や少数民族問題など中国政府の望まない情報を非表示にするという自主検閲を受け入れたため,ヤフーなど他のネット関連事業者とともにアメリカ議会の公聴会で集中砲火を浴びた。

グーグルはその後,中国市場でのシェアを30%以上と,中国の事業者「百度」に次ぐ2位にまで伸ばした。しかし2010年1月,中国政府による厳しいネット検閲に加え,同社の無料メールサービス「Gメール」が中国国内からと見られるハッカー攻撃を受けたことなどを理由に,中国市場からの撤退を検討していると表明,その後検閲の停止を要求して中国政府と交渉に当たっていた。これに対し中国商務省の報道官は3月16日,「中国市場に参入した際,グーグルは中国の法律を尊重すると明言していた」と述べるなど,中国政府は譲歩する気配を一切見せなかったため,グーグルが正式に中国市場からの撤退を決めたものと見られている。

今後,中国のネットユーザーが「google.cn」にアクセスした場合,自動的に香港に拠点を置く自主検閲のないサイト「google.com.hk」に転送され,中国政府の干渉がなければ検索結果が香港で使う繁体字に加え,中国大陸で使う簡体字でも表示されるという。この措置についてグーグルのデビッド・ドルモンドCLOは,「完全に合法であり,中国政府はグーグルの措置を尊重して欲しい」と語る一方,中国政府がこのサイトをブロックする可能性もあるとの認識を示した。このためグーグルは,自社のネットサービスの中国からの利用状況を一般に公開するためのサイトを新設し,サービスがブロックされていないかについて世界の利用者が監視できる対策を講じたという。中国国内でグーグルのサービスを利用している人たちによると,香港版のサイトに接続されてはいるものの,実際に検索すると結果が表示されないケースも多いということで,中国政府が何らかの検閲を行っている可能性が指摘されている。

今回のグーグルの措置について中国政府は,国務院新聞弁公室ネット局の責任者が23日に談話を発表,「グーグルが中国市場に進出した際の約束を破ってコンテンツ管理を放棄し,ハッカー攻撃に関して中国政府を非難したのは,完全に誤っている」などと反論,ビジネスの問題を政治化することに強く反対すると述べた。また中国外務省の報道官は同日,記者の質問に対し,グーグルの事案は一企業による個別の行為であり,米中関係と関連づけるべきではないと答えた。

また中国メディアの関係者によると,中国政府は国内メディアに対し,グーグルに関するニュースを報道する際は,政府の方針にそった形で行うよう口頭で指示したという。

今回のグーグルの措置について中国のネット上では,ツイッターなどでは撤退を惜しむ声が多いものの,網易など主要サイトの論壇では,「こんな会社,とっとと出て行け。二度と中国で商売するな」といったナショナリズムの色が濃い発言も多く見られた。

山田賢一