メディアフォーカス

国際公共放送会議開催

~経済不況下のメディア共生時代に,公共放送の進む道を議論~

国際公共放送会議(PBI:Public Broadcasters International)が2009年12月7日と8日の2日間にわたって,京都市の国立京都国際会議場で開催された。PBIは1990年に,多メディア・多チャンネル化,グローバル化や放送の自由化が進むなかで各国の公共放送幹部が集い,公共放送が直面する課題を共有し,それぞれの経験から学ぶことを目的に組織されたもので,1991年から毎年開催されている。今回のPBI京都会議は,初めて日本で開かれ,40の国と地域の公共放送の幹部100 人,ホストとなったNHKからは福地会長,今井副会長,永井技師長・専務理事のほか,民放界から広瀬民放連会長も参加して,6つのセッションが行われた。

今回は,「金融危機がもたらした世界同時不況の中で,公共放送の役割を再定義し,受信料という公的資金の価値を最大化するためには何をなすべきか」と「放送通信融合というメディア環境のなかで,公共放送がなすべきサービスとは何か」の二大テーマで議論が進められた。

キックオフとなる第1セッションの「経済危機下で公共放送を再定義する」には,スイス,アメリカ,オーストラリアの公共放送からの代表が講演を行った。景気に左右されない受信料などの公的財源を得ている公共放送にとって,経済不況を危機ではなくチャンスであるという共通認識のもとに,商業ベースではカバーできない領域,たとえば,多文化社会の融合(スイス),民主主義の柱となって国際的視野を持ったニュースの提供(アメリカ),ブロードバンドを活用した効率的なユニバーサル・サービスの提供(オーストラリア)など,各国独自の役割を紹介した。また,このセッションは,日本から民放連の広瀬会長が講演し,受信料によるNHKと広告放送による民放の二元体制は国内で評価され,その変化を望む声はないとし,日本における公共・民間の協力体制について「放送のインフラを共同で構築してきたこと」,デジタル放送システムのISDBやHDTVを例にあげ,「放送通信技術の開発をNHKが行い,民間放送が技術を共有し導入してきたこと」,「番組の公平性を保障するため,BPO(放送倫理・番組向上機構)という第三者機関を共同で設置していること」の3点を挙げ,日本の放送制度を説明する一方,新たな収入源を模索している民放にとって,インターネットなどNHK が新しい分野に進出する場合は十分に話し合っていきたい,との考えを述べた。

技術に関するセッション「技術革新と公共放送」では,NHKの永井技師長が「HDTVの研究は東京オリンピック開催の1964年に始まり実用化は91 年,デジタルは80年代に研究を開始して2000年に放送を始めるなど,長い年月をかけた」と述べ,長期的な視野で本格的な研究開発を行う重要性を強調した。これに対して,米PBSの担当者は「アメリカの公共放送は日本と異なり,短いスパンでの応用技術に力を入れ,文字多重放送のクローズド・キャプションシステムなどを取り入れた。95年にはいち早くオンラインpbs.orgも開始した」と述べた。また,80年の歴史を持つイタリアRAIの研究センターの担当者は「技術革新のためには,私たちとNHK,BBCなど研究機関同士が連携することも重要である」と国際協力の必要性についても言及した。

2日目の第6セッションでは,「テレビのスクリーンは誰のものか?」が議論のテーマとなった。このセッションは,近年のメディア環境の変化,特にインターネット(ブロードバンド)の普及によって,テレビがゲームやインターネットを利用する端末としても利用されるようになった結果,テレビのスクリーンに対するコントロール権が放送局(=送り手)側から視聴者(=受け手)側へ移行しつつあることを踏まえたものである。こうした変化のなかで,公共放送としてどのような戦略・サービスを構想していくべきかに議論の焦点が当てられた。

セッションでは,特に視聴者参加番組の在り方やインターネットを利用した双方向機能の試みについて議論が行われた。韓国KBSの担当者は,同局が行っているネット上でのサービスを紹介した。これはKBSが行っているインターネット向け番組配信で付加的に行っているサービスで,ドラマなど人気動画コンテンツについて,視聴者が自らのブログに好きなシーンやカットをコピーしコメントをつけたり,これらの映像を知人・友人などに送って共有したりすることができる。こうしたサービスによってドラマのファン層を拡大するとともに番組をより身近に感じてもらうということが目的である。

また,NHKの子ども向け番組『天才てれびくん』のプロデューサーは,同番組が行っている視聴者参加型の番組制作の模様を紹介した。この番組では,生放送の一部が番組ホームページにアップされ,視聴者が番組内で進行するドラマの筋書き作りに参加していくという新しい試みが行われている。このHPの年間ページビュー数は9,000万に達しているという。さらに同プロデューサーは,番組でのこうしたインターネット利用を通じて,直接の視聴ターゲットである子どもだけでなく大人をもテレビに呼び戻すことができるのではないかと挑戦を続けていると話した。

台湾の公共テレビからは, シルヴィア・H・フェンCEOが登壇し, 同放送局が「市民ジャーナリスト」を登用して展開している取り組みが紹介された。市民ジャーナリストは,韓国の公共放送KBSなどでも盛んに活動しているが,台湾公共テレビでも300人の市民ジャーナリストが実際のニュース,リポートなどの取材活動を行っている。会場では市民記者が各地で取材した災害や事件,地域の話題が実際の放送にどのように活用されているか,その様子が上映された。編集権の独立や情報の信ぴょう性が懸念されたが,これまで大きな問題は生じていないという。セッションは,最後に司会者である慶応義塾大学の中村伊知哉氏が,公共放送はコンテンツ・プロバイダーであると同時に,“場の提供者”として機能する必要があり,インターネットをはじめとする近年の多様化するメディア環境や技術は,そうした目的のためにより有効に活用される必要があると指摘して議論を締めくくった。

以上のように,2009年のPBIは多メディア・多チャンネル化,インターネットの普及といったメディア環境の変化,グローバル化の進展といった社会状況の変化に,世界の公共放送がどう対応していくかというテーマがさまざまな角度から議論された。なお,次回(2010年秋)のPBIはポルトガルで開催される予定となっている。

中村美子/柴田 厚/米倉 律