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日テレ『バンキシャ』の虚偽証言放送 短い制作日数と責任体制の不備

~BPO放送倫理検証委が指摘~

放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会(委員長・川端和治弁護士)は2009年7月30日,日本テレビが虚偽の証言に基づいて,岐阜県庁で土木工事にからんで裏金づくりが継続していると放送した問題等に関する審理結果を公表した。

日本テレビは08年11月23日の『真相報道バンキシャ!』で,「独占証言…裏金は今もある」と題して,岐阜県と山口県の職員が関与したとする裏金づくりと京都府と愛知県の不正経理問題を取上げて放送した。ところが,岐阜県庁で裏金づくりが今も行われていると告発した情報提供者が,09年1月架空工事で中津川市から工事費を騙しとった容疑で逮捕され,日本テレビへの証言も嘘だったことが判明した。日本テレビは岐阜県に謝罪するとともに,09年3月1日の同番組で,放送法第4条に基づく訂正放送を行い,3月16日には社長が引責辞任,報道局長の役職罷免など関係者の処分を行った。

検証委員会は,原因等について審理を行い,日本テレビに対して,

① 企画段階から放送に至るまでの経緯を自ら検証し,そこから得られる教訓を明らかにするとともに,再発防止のための具体策を盛り込んだ検証番組を制作し,系列ネットワークで全国放送をすること。

② 日本テレビが,これまで行ってきた検証結果を報告書にまとめ,公表すること。
さらに訂正放送は,虚偽の事実を放送し,視聴者に与えた誤解を解くものとしては,事実に反した部分の明示や,それをどのように訂正しあるいは取消すのかを明確に示すという点で十分なものではなかったとして,

③ 放送法による訂正放送に,ふさわしい内容と形式について再検討すること。

の3点を勧告した。

3月に公表された日本テレビの内部調査では,「番組に関わった制作スタッフの多くが『取材の基本』を忘れ,情報提供者の話を鵜呑みにして,十分な裏付け取材をしないまま,結果的に事実に反する放送をした」と取材不足が原因だったとしているが,検証委員会は証言内容の真偽を確かめる問題点がいくつかあったにもかかわらず,見逃されてしまった,と指摘した。

具体例として,情報提供者が裏金の証拠資料として出した建設業者の小切手に関して,この業者には何の取材もしていなかったことや,裏金づくりには10社程度の土木建設業者が関与していると情報提供者が語っていたにもかかわらず取材範囲を広げていなかったこと,裏金の送金先だという銀行口座の住所が情報提供者の住所と同一だったのに詰めた取材をしなかったこと,などを挙げている。

証言内容に疑問を持った幹部スタッフもいたが,情報提供者の説明を善意に解釈したり,確認が中途半端に終わってしまったりして,結局は誤報につながった。この点について検証委員会は,短い制作日数と責任を空洞化させる組織構造に問題があったとしている。

『バンキシャ』の制作は,1週間単位で組み立てられ,社会のさまざまな出来事に加えて独自ネタなど,取上げるテーマの最終確定は水曜日であった。したがって,放送日までの取材期間は当日を入れても4日間しかなかった。裏金づくり関連の企画は,情報提供に基づいて先行取材はされていたが,それでも取材ディレクターはテーマの最終確定以降の4日間で,京都,岐阜,山口を1人で取材して回らなければならなかった。検証委員会は「裏付け取材を行う時間的余裕など,あるはずもなかった」と指摘した。

幹部スタッフ(日本テレビ社員)は,さまざまな指示を現場に出しているが,誰も現場には行っていないし,告発証言の当事者と電話でさえ話していない。一方現場取材スタッフ(制作会社派遣)は,幹部が取上げると決めたテーマだから信用できる内容なのだと思い込んで積極的な裏付け取材に動かなかったという。検証委員会は,幹部スタッフと現場取材スタッフの情報交換が不十分で,詳細な情報をふまえた方針決定と役割分担ができていなかったとし,責任体制の空洞化があったとしている。

検証委員会は「制作日数が短いばかりではない。そもそも,告発報道は,それが真実であると裏付ける取材や調査に時間も手間もかかるものである。寄せられた情報や事実が真実であるか否かの究明をまず行い,放送にたえうる事実が集められて初めて,放送日を決定することができるはずである。しかし,『バンキシャ』の制作体制は,そこが倒錯していた。放送日に合わせて無理やり取材を間に合わせるという制作体制が,本件放送の取材が不十分となった根本的な原因を作り出している」と指摘した。

日本テレビは7月30日,勧告を重く受け止め,8月16日の『バンキシャ』と17日午前0時50分からの番組で検証内容を放送すると発表した。

奥田良胤