メディアフォーカス

中国,天安門事件20年でメディア統制強化

学生らの民主化運動を武力で弾圧した天安門事件から2009年6月4日で満20年となる。民主化運動の再燃を恐れる中国政府は5月からメディア統制を一段と強化した。香港メディアなどの報道によると,活字メディア関係では,広東省政府の新聞・出版を管理する部局が22日,緊急の会議を開き,各メディアに対して政治的に敏感な話題を避けることや,否定的なニュースを扱わないことなどを指示した。比較的自由度が高いとされるインターネットも統制が強化され,グーグルのブログサービスが5月中旬から閲覧不能となった。また四川大地震の際に手抜き工事で死亡した人の数を調べようと今年に入ってからブログで呼びかけたアーチストの艾未未氏のブログは3つとも28日に閲覧不能になった。放送関係では,国家ラジオ映画テレビ総局が5月4日,各放送局に対して,過去にスキャンダルや違法行為があった者を番組のゲストに呼ぶことを禁止したのをはじめ,10日には武漢テレビに対し,視聴者参加型の歌謡コンテスト番組について,親戚や友人が抱き合って叫ぶ場面があり低俗だとして放送を禁止した。

このほか,最近起きた具体的な事案に対する指示・命令も頻発している。湖北省では5月上旬,足裏療法師の女性がホテルの宿泊客だった3人の役人から性行為を強要されそうになったため,このうち2人をナイフで刺し,1人が死亡,1人が大怪我をした事件があったが,事件が報道されるとネット上で女性を擁護する意見が沸騰した。政府当局はこの事件についてメディアが報道しないよう指示をだしたが,その背景には,天安門事件20年を間近にした時期に腐敗官僚への批判が噴出すれば,体制批判に移行しかねないことを懸念したものと見られている。また天安門事件で失脚した趙紫陽元総書記の肉声付きの回顧録が5月中旬に香港で出版された際にも,中国国内では関連のニュースは一切報道されなかったが,華僑など海外向けの通信社である政府系の中国新聞社が配信した反論の記事が,香港の中国系の新聞に掲載された。これは中国本土では趙紫陽氏関連の情報を封鎖している一方で,その外にある香港を含む海外では情報が広く流通していることから,中国政府として海外向けに天安門事件の民主化運動弾圧や趙紫陽氏への処分を正当化しようとしたものと見られている。

天安門事件のあった6月4日の前後は例年メディア統制が強化されていたが,今年は純粋に政治的な問題に限らず,芸能番組や殺人事件といった幅広いテーマについて投網をかけるように一律禁止の措置を取っているのが目立っている。しかも今年は,例年比較的報道の自由を謳歌してきた香港のメディアでさえ,自主規制の色を濃くしている。中立系とされるサウスチャイナ・モーニング・ポスト系の雑誌『エスクワイア』では,民主化運動の学生リーダーだった柴玲氏の演説を掲載した「6.4特集」号のうち十数ページが最終段階でオーナーの指示により削除された。こうした状況に対し,言論の自由のために活動する海外のメディア団体は危機感を強めている。「国境なき記者団」は6月2日,中国政府に対し,20年前の民主化運動に参加したことやその後民主化運動に言及したことが原因で現在も拘束されているジャーナリストの釈放や,事件に関する報道の自由を要求した。

山田賢一