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仏公共放送FTV,広告放送の一部を廃止

1月5日から,フランスの公共放送France Televisions(FTV)の傘下各局の広告放送が一部廃止された。サルコジ大統領が昨年1月に公共放送の広告放送について,段階的な廃止を検討すると発表してからほぼ1年である。実際に廃止されたのは,20:00から翌朝6:00までの間で,議会で審議中の放送法を改正する法案が成立すれば,2011年11月に地上デジタル放送に完全に移行した段階で広告放送は全日廃止される。ヨーロッパの主要な公共放送機関のなかで広告収入に依存しないのはイギリスのBBCだけであるが,2011年にはFTVもこれに加わることになる。1968年10月に公共放送の第1チャンネルで最初の商標広告が放送されてから約40年を経て,公共放送は新たな時代を迎えることになる。

F2の場合を具体的にみると,その20:00以降の番組は原則的にニュースに続く第1部~第3部までの番組で構成されている。5日から,ニュースの時間が4分短縮されて19:58~20:30の放送となり,その直後に気象情報などの5分間をはさんで第1部の放送が始まる。従来開始時間が遅すぎると苦情のあった第2部の番組は,広告放送がなくなった分だけ放送時間が繰り上がる。この結果,番組の放送開始時間は, 第1部が20:55から20:35に,第2部が23:00から22:25ころに繰り上がった。視聴者の視聴習慣を変えるため,FTVではキャンペーンスポットを流すとともに,魅力的な新番組の編成に努めている。またF3でもプライムタイムの番組を20:35開始に合わせた。一方,商業放送のM6は短編番組を20:35に開始し,メイン番組は20:45開始に変更した。これに対してTF1は20:50開始のままで事態を静観する姿勢である。FTVの番組がつまらなければ,視聴者はM6へ,次いでTF1に移動する可能性があることになる。

5日の視聴率調査結果によると,好奇心も手伝って視聴者数は増加し,視聴率のピークは通常の21:15ではなく20:26に早まったが,各局の視聴率に特段の変化はなかった。また11日に発表された世論調査CSA/LeParisienによれば,広告放送廃止には78%が賛成し,反対は14%という結果であった。

広告放送の一部廃止により,FTVでは広告時間数の約4分の1,広告収入の半分近く(2億~3億8,000万ユーロ)が消滅するといわれる。議会で審議中の放送法を改正する法案により,商業放送と通信事業者に対する新たな課税制度が創設され,FTVの減収分が補償されることになっている。

これに関連して,広告放送に関する政令が12月に公布され,TF1とM6は1月1日から,番組中断広告が1回しか認められていなかった映画やドラマで2 回目の中断が認められ,また1日平均で1時間あたり9分間(従来は6分間)の広告放送が可能になった。この結果これら2社の広告放送時間は増えることになる。そのためFTVの広告放送廃止はTF1に有利に働くとみられてきたが,1月の広告収入の実績をみると,前年1月との比較で,M6では3%の減少,TF1にいたっては12%と大幅に減少し,一方で地上デジタル放送のチャンネルが大幅に増加,予測とは逆の結果になった。

従来社会党が主張してきた公共放送における広告放送廃止を与党が実現する形になったが,FTVにとっては商業放送との差別化をはかり,公共放送ならではの番組で視聴者を引きつけることができるか,今後の課題である。

豊田一夫