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BBCラジオ「R・ブランド ショー」“危機管理が不十分”~最終報告書

BBCラジオ2の『ラッセル・ブランド ショー』で不適切な内容が放送された問題について,BBC執行役員会は2008年11月20日,最終報告書を監督機関であるBBCトラストに提出し,「コンプライアンス手続きの不徹底」や「編集判断ミス」が原因だとして今後,局内の危機管理体制を強化することを約束した。

この問題は,2008年10月18日に放送された2時間のトーク番組(収録)の中で,司会のR・ブランドとゲストのジョナサン・ロスが著名な男優宅に電話し,留守番電話に家族を中傷するような卑わいなメッセージを残したもの。これに対して,BBCには4万件を超える抗議電話が寄せられ,ブラウン首相も内容を批判した。BBCでは会長が謝罪し,ラジオ2のトップとコンプライアンス担当責任者の2人が辞任,司会のブランドは番組を降板するなど大々的な処分が行われた。

今回の問題では,収録番組にもかかわらず,チェック機能が働かず,なぜ番組が放送されてしまったのかが焦点になった。報告書によると,番組は外部プロダクションへの委託で,BBCでは制作会社に対して,番組内容に問題がないことを確認するコンプライアンスの書類を事前に提出することを義務づけている。

番組収録時,担当プロデューサーは不適切な発言があったことに気づいていたが,編集でカットすればよいと考え,BBCのコンプライアンス担当責任者へ,番組の「前半1時間」分のファイルを添付してメールを送付した。この担当責任者は“該当箇所”を2度聞いたうえで,上司のラジオ2の局長に「冒頭に“お断りコメント”を入れたうえで,このまま放送することは可能。ブランドのリスナーには受け入れられる」旨のメールを送り,判断を仰いだ。局長は,彼が番組をすべて聞いたうえで判断したと考え,放送にゴーサインを出した。

結局,コンプライアンス担当責任者は番組全体を聞いておらず,さらに,番組の「後半1時間」は放送当日に届けられ,BBC内部で事前のチェックを受けないままオンエアされた。これに加えて,担当プロデューサーが事前提出するはずのコンプライアンスの書類も,放送前に出されていないことが明らかになった。

BBCではコンプライアンスの責任者を置いているが,この人物が番組全体を事前に試聴することまでは定めておらず,責任の所在があいまいなまま今回のような問題が生じた。また,内容を確認したコンプライアンス書類の提出についても,決まりが守られていないことがしばしばあった。

監督機関であるBBCトラストでは,今回の問題は「制作時の内容チェック体制の不備」,「コンプライアンス手続きの不徹底」,「幹部の編集判断ミス」の 3つの失敗が重なった結果であると結論づけた。そして,番組や危機管理方法の見直しと再発防止のための具体的な改善策をまとめることを,BBC執行部に求めた。

BBCでは2007年から,エリザベス女王の番組で事実と異なる映像編集が行われた事件や,電話参加番組のやらせ事件など不祥事が続いている。今回の問題を受けてBBCでは,会長と副会長の主導で会議を開き,すべての編集責任者に問題の深刻さを改めて認識させ,再発防止に努めることにしている。

柴田 厚