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放送内容への期待は保護の対象外 NHKの番組改編で最高裁判断

~『ETV2001 問われる戦時性暴力』~

NHKの『ETV2001 問われる戦時性暴力』(2001年1月放送)が放送直前に改編されたとして,取材に協力した市民団体がNHK等に損害賠償を求めていた訴訟で,最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)は2008年6月12日,NHK等に損害賠償を命じた2審の東京高裁判決を破棄し,市民団体の請求を退けた。

この訴訟は,「戦争と女性への暴力」日本ネットワークが,取材に応じた際の説明と異なる内容の番組が放送されたとして,NHKと下請けの制作会社2社に損害賠償を求めていたもの。1審の東京地裁は2004年3月,実際に取材・制作にあたった孫受け会社に100万円の賠償を命じた。2審の東京高裁は 2007年1月,政治家の意向を推量してNHKは番組内容を修正しており,編集権を放棄したに等しいとして,NHKに200万円の賠償を命じ,このうち 100万円は制作を担当した2社に連帯責任があるとの判決を出した。

最高裁はこの日の判決のなかで,

  • (1) 放送局が番組を制作するにあたり,どのように編集するかは局の自律的判断にゆだねられていると一般的に認められている,
  • (2) 最終的な放送内容が当初企画されたものと異なったり,番組自体が放送されなかったりする可能性があることも認められている,

とし,取材を担当した者の言動によって,取材された側が,素材が一定の内容,方法で放送に使用されると期待,信頼したとしても,原則として法的保護の対象にならないとの判断を示した。

そして,取材された側の期待や信頼が法的保護の対象となるのは,

  • (1) 取材に応じた側に格段の負担が生じた場合,
  • (2) 制作側が,必ず一定の内容,方法で取り上げると説明し,その説明が取材に応じる意思決定の原因となった場合,

に限定されるとした。

今回の場合は,NHK側の取材活動は,大半が市民団体が当初から予定していた事柄で,取材に応じた市民団体に格段の負担が生じてはいない。また,市民団体が開催した旧日本軍の性暴力を裁く「女性国際戦犯法廷」についても,取材担当者が必ず一定の内容,方法で取り上げると説明したとはうかがわれない。さらに,番組内容改編について,内容の変更を取材を受けた側に説明すべき法的な義務は放送局側にはないと判断した。

2審の東京高裁は,番組編集の自由は憲法上尊重されるべきであるとしたうえで,ドキュメンタリー番組については,取材を受けた側が放送内容に関して,取材した側の言動により期待を抱くやむをえない特段の事情があった場合には,取材された側の期待と信頼が法的保護の対象になると判断したが,最高裁はこの判断を覆し,すべての番組について放送局に不法行為責任が生じる場合の限定条件を初めて示し,憲法21条に規定される表現の自由をより重視する判断をした。

当該番組に関する放送直前の内容の改編について,NHK幹部が政治家の発言意図を推量してできるだけ当たり障りのない番組にするために修正を繰り返した,と東京高裁が編集権とのかかわりで指摘した点には最高裁は触れなかった。

奥田良胤