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「イタリアの周波数割当制度は条約違反」欧州司法裁判所が判断

2008年1月31日,ルクセンブルクにある欧州司法裁判所は,「イタリアの現行法制が定める放送周波数割当制度は,サービスの自由な提供と競争の原則に違反しており,欧州法で定める公平,公正,透明な割当の基準に準拠していない」とし,EC条約に違反するとの判断を下した。

これはイタリアの商業テレビ界に新規参入を狙ったCentro Europa7(本社ローマ市)が,1999年7月に国内で全国アナログ放送免許を正式取得したにもかかわらず,実際には周波数不足で放送を行うことができず,国内の行政裁判所(TAR)に放送と通信を所管する通信省と独立規制機関のAGCOMを訴えたことがそもそもの発端である。行政裁が2004年9月この訴えを退けたため,その判断を不服としたEuropa7は,行政裁の上級審にあたる国務院へ訴えを起こしていた。国務院は判決を下す前に,欧州司法裁にEC条約規定と対比させた解釈について判断を求めた。

イタリアでは過去,1997年放送法(通称マッカニコ法)で初めて周波数割当計画が策定され,1999年7月に新規参入を促す全国向け事業者の選考と免許付与を行った。しかし,それに伴う周波数の割当は実際には行われず(現在に至っても実施されていない),ベルルスコーニ元首相が実質的に所有する商業放送最大手MediasetグループのRete4など,マッカニコ法の集中規制の上限を超えた事業者は暫定的に放送の継続を認められた。暫定期間の終了後は衛星波に移行することが規定されていたが,以後も制度的に,「暫定期間」を繰り返し延長してきた経緯がある。そして,イタリア憲法裁判所が2002年11 月,この「暫定期間」を2003年12月末で終了させるよう判決を出すが,当時のベルルスコーニ内閣では緊急政令(いわゆる「Rete4救済令」)を出してこれを2004年4月末に延長した。さらにその直後に現行の2004年放送通信改革法(通称ガスパッリ法)を成立させ,新しい集中排除規定により Rete4の立場は合法化され,Europa7は,Rete4の衛星波移行で空くはずだった周波数利用の道を閉ざされてしまった。

欧州司法裁は,イタリアのこのような一連の法制度が,アナログ正式免許を持つ事業者に割り当てるべき周波数を自由化せず,既存の事業者以外の新規事業者が地上デジタル試験放送へ参加することを妨げる結果となったと結論づけている。欧州委員会のレディング情報社会・メディア担当委員は,「司法裁の判断を強く歓迎する。この判断により,イタリアの法制度が新規事業者のデジタル放送への参入を妨げていることが明らかとなった。今後イタリア当局に対し,今回の判決を速やかに実行に移し,柔軟で公正な競争をもたらすよう呼びかける」と述べた。イタリア国務院は,早ければ夏前に,今回の欧州裁の判断を受けて判決を出す予定である。

この欧州裁の判決により,新政権によるイタリアの現行放送制度の改革は急務となった。最近行われた世論調査では,4月に行われる総選挙でベルルスコーニ元首相が率いる中道右派が勝利し,再び首相に返り咲く可能性が高いと予測されている。そうなれば,一族が所有する企業の利害が絡む法制度の改正を,一体どのように行うかが注目される。

広塚洋子