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地デジ受信不能地域にBSで再送信2009年度中の開始へ具体案

2011年の地上アナログ放送終了期限までに,地上デジタル放送を送り届けられる見通しが立たない地域向けに,NHKと民放キー局の番組を放送衛星(BS)経由で再送信するセーフティネット案が,2007年12月18日に開かれた情報通信審議会「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」で示された。

これはNHKや民放各社,総務省で作る全国地上デジタル放送推進協議会(全国協議会)が検討していたもので,提示された案によると,山間部など地上デジタル放送の受信環境が整わず,テレビが見られなくなる世帯について,BSを利用してNHK(総合・教育)と民放キー局(日本テレビ・TBS・フジテレビ・テレビ朝日・テレビ東京),計7チャンネルの番組を同時再送信するとしている。再送信は,放送分野に実績のある公益的な法人が委託放送事業者の認定を受けて実施主体となり,BS(17chを想定)を利用して行う。開始時期は2009年度中が目標で,地上デジタル放送の受信が可能になるまでの緊急避難的な措置という趣旨から,実施期間については基本的に5年間としている。

ただし,地上デジタル放送を視聴できないすべての地域で7つのチャンネルが見られるものではなく,視聴できるのは,NHK(総合・教育)と,その地域に系列局が存在する東京のキー局の番組となる。例えば,山梨県の受信不能世帯が衛星を通じて見ることができる放送は,NHK以外では,地元に系列局がある日本テレビとTBSの番組のみとなる。一方,複数のキー局の番組を受けて編成しているクロスネット局がある地域では,該当するキー局については,いずれも再送信される(民放が1局のみの徳島県と佐賀県については今後検討)。また,画質はデジタル標準画質(SD)で,データ放送は提供されない。

地域によって視聴可能な番組が異なることから,民放の番組についてはスクランブルがかけられることとなっており(NHKについては別に検討),今後,各地域の放送事業者で作る地域協議会が電波の届かない地区名をリスト化した「ホワイトリスト」を作成し,このリストに基づいて,スクランブルが解除されるチャンネルが決まることになる。

衛星によるセーフティネットにかかる経費について,全国協議会では,送信側の経費(衛星の運用に関する経費)は視聴者に負担を求めないとしているものの,受信側の経費(コールセンター・利用者管理・料金収納などの経費)をどうするかについては未定としており,今後,経費の総額や視聴者負担のあり方について検討が行われることになっている。

地上デジタル放送は,2006年にすべての都道府県で開始され,2007年12月末には全世帯の約92%で放送を直接,受信できるようになったとみられる。NHKや民放各社は今後も,デジタル中継局の整備や共聴施設の改修を進めるほか,総務省もギャップフィラー(小型中継局)の制度化などによって難視聴の解消に努めることにしている。しかし,山間部で電波が届かないといった理由で,2010年末の時点で,最大60万世帯が地上デジタル放送を視聴できない可能性が出ており,情報通信審議会は2007年8月の第4次中間答申で,暫定措置として衛星によるセーフティネットの検討を求めていた。

村上聖一