メディアフォーカス

独レオ・キルヒ,スポーツ放送権ビジネスに再参戦

~ブンデスリーガ放送権の販売エージェントに決定~

キルヒ・グループの崩壊から5年半,81歳のレオ・キルヒが再起に向けて動き出した。10月9日,キルヒの所有会社Siriusは,ドイツサッカー連盟(DFL)から,ブンデスリーガ放送権の販売エージェントに指名された。

Siriusは,ドイツ語圏の事業者向けに,2009年から2014年までの6シーズンの有料テレビ,無料テレビ,インターネット,携帯向けの放送権の入札と販売を行う。Siriusは,1シーズンにつき,現在の放送権料4億2,000万ユーロを上回る,5億ユーロ(約800億円)の収入をDFLに保証した。

さらにSiriusとDFLは,実況解説入りの番組制作を行う会社を合弁で設立することで合意した。DFLは出来あがった番組を,放送事業者やIPTV などのプラットフォーム事業者に販売する。番組制作の負担がなくなるため,より多くの事業者が入札に参加することをDFLは期待している。

報道発表後,キルヒとの提携について疑問視する声が多く上がった。2002年にキルヒ・グループが経営破たんしたとき,当時キルヒと4シーズンの放送権の包括契約を行っていたDFLも大きな打撃を受け,深刻な経営危機に陥るクラブチームも出たためである。しかしDFLは,今回の契約は1年ごとに銀行保証がつくため心配はない,としている。

DFLがキルヒの「前科」を問わず,オファーに飛びついた格好になったのは,将来の経営見通しについての懸念が非常に大きかったためという見方がある。 2005年末にDFL自身が行った前回の入札では,有料放送Arenaの新規参入が大きく影響し,DFLの放送権収入は過去最高となった。しかし Arenaは財政難に陥り,今年7月に2008年までの放送権を競合していた有料放送Premiereに譲渡している。現在,入札候補はPremiere のみで,放送権料の上昇ないし維持は望めない状況にある。

キルヒの提案したビジネスモデルは,完成した番組を販売することで,Premiere以外の,番組制作能力を持たないケーブルテレビやIPTV事業者などにも入札のチャンスを与え,価格を押し上げることを狙ったものである。

また,長期的な見通しがつかなくなっている現在の複雑なメディア状況の中で,百戦錬磨のキルヒがエージェントとして6シーズンの収入保証をしてくれることは,DFLにとって心強いものであった。ボルシア・ドルトムントの会長ラウバル氏は「クラブ存続の最大限の保障ができた」とコメントしている。

この提携発表に先立つ9月26日,キルヒの持株会社KF15は,ドイツのスポーツ・メディアグループEM.Sport Mediaの最大株主となった。これによりキルヒは,現在公共放送と並んでブンデスリーガのハイライトを放送しているスポーツ放送専門局DSF,スポーツ・娯楽番組制作会社Plazamedia,UEFAチャンピオンズリーグ放送権の販売を行うスポーツ・マネージメント会社Teamなどの経営に発言権を持つことになった。今後さらに経営権を強化していくものとみられている。

放送権販売,番組制作,放送局までを統括するこのスポーツメディアコンツェルンは,あたかもかつてのキルヒ・グループの小型版のごとくである。今後キルヒがどのような形でビジネスを展開していくか,大いに注目される。

杉内有介