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英 BBC,第2次効率化計画を発表

~6年間で1,800ポストを追加削減~

イギリスのBBC会長マーク・トンプソン氏は10月18日に,全職員に向けてスピーチを行い,2012年までの6年間に1,800のポスト削減を中心とする効率化計画を発表した。これは,2012年度までの受信許可料の値上げによる収入が,BBCの当初の予定よりも大幅に下回ることが決まったため,事業計画を再検討した結果出された結論である。

政府とBBCの間では,この(2007年)3月に2007年度から2012年度までの受信許可料の値上げに関する取り決めが行われた。BBCは,小売物価指数(RPI)+アルファの値上げを求めていたが,政府はRPIに連動した値上げ方式ではなく,2006年度から最大3%の値上げを決め,実質的に RPIを下回ることもありえる取り決めとなった。この結果,2007年の受信許可料は,カラーテレビが年額135.50ポンド(約32,000円/1ポンド=240円)となり,6年間の受信許可料収入は,200億ポンド(4兆8,000億円)を超える見込みである。しかし,BBCの要求額との収入の差額は,6年間で約20億ポンドとなる。BBCは値上げの要望と並行して,自助努力としてポストの削減やグループ子会社の売却など3,800人の要員削減をすでに進めていたが,政府の値上げ方式決定後,毎年3%の節減を目標に事業計画を再検討し,BBCトラストの承認を得て第2次効率化計画を発表した。

この計画では次のような内容が示された。

  • テレビ全体を通じて,2012年までに番組制作費を10%以上削減
  • 制作費削減によって,再放送時間が増加。しかし,メインチャンネルのBBC ONEの夕方から夜間にかけてのピークタイム(視聴好適時間)における再放送時間数は現行レベルを維持
  • 2012年までに1,800人のポストを削減
  • 事実番組制作部門が効率化の影響を最も受け,来年までに放送時間数を11% 削減(それでも2004年のレベルを上回る)。制作本数を縮小することで,『Planet Earth』やすぐれた歴史番組の制作に資源を集中
  • テレビ,ラジオ,オンラインのニュース部門を統合し,重複を解消
  • 4つのローカルラジオ局の建設計画は中止
  • 若者向けのBBC THREEや10代を対象とした新しいサービスの予算を削減
  • 2012年末までにロンドンのテレビジョンセンターを売却

このBBCの効率化計画発表後,通常はBBC批判派・支持派に分かれる新聞各社が,同じような批判と評価を行っている。まず,もともと,BBCの値上げの要求が過大であったことを指摘している。BBCは,政府に対し,デジタル完全移行に貢献することと第2放送センターをイングランド北西部に建設し,制作部門を部分的に移転することで,地元の産業の振興に貢献するという2つの公約によって,受信許可料の値上げ交渉を有利に進める策をとったと考えられている。どちらも,政府の公共・産業政策に沿ったものだからだ。しかし政府は,この2点は値上げの総額のなかに計上したが,それ以外はBBC の主張を全面的に認めたわけではなかった。また,各社とも,ロンドンの放送センターの売却は妥当だと評価している。なぜなら,第2放送センターが2008 年には建設が終了するうえ,テレビジョンセンターと同じ地域に,BBCは近代的なメディア・ヴィレッジをすでに建設し,2004年にオープンしている。さらに,ロンドン中心地の放送会館も現在全面改築が進められているからである。

一方,各社とも事実番組部門が効率化の標的になったことを批判している。The TimesとFinancial Timesは,合理化してスリムになるBBCは賛成だが,事実番組の質の高さと卓越性は,BBCの存在意義そのもので,受信許可料支持の基盤であることを指摘し,BBCはいわゆる公共サービス放送に集中すべきと批判した。事業経費を見直すならば,デジタル新サービスの若者向けのBBC THREEや文化・芸術のBBC FOURの廃止という意見も上げられた。また,The Independentは,上記の2紙と同様に「間違った場所に斧が振り下ろされた」と批判し,なかでも,ニュース部門の統合と職員の合理化は,テレビ,ラジオ,オンラインと非常に異なるメディアにおいてBBCが持つ専門性を同時に弱体化する危険を抱えていると指摘し,各メディア間の運営の問題として解決すべきであると指摘した。

BBCは,2度目の効率化を余儀なくされ,事実報道部門にも大きく踏み込むことになった。この決断がサービスを利用する視聴者にどのように受け止められるのか,今後が注目される。また,2012年のデジタル完全移行後,BBCのサービスの規模と範囲が受信許可料財源の収入の範囲内で持ちこたえることができるのか,特許状更新という大きな節目を越えたいま,今回の効率化計画は早くも新たな課題を提示していると言える。

中村美子