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NHK「5か年経営計画」,議決に至らず

NHK執行部は2008年度からの「5か年経営計画」案を策定し2007年9月25日にNHK経営委員会に提出した。しかし,経営委員会は内容が不十分だとして承認せず,「中長期経営計画」を改めて提案するよう求めた。

経過:

2007年1月,菅総務相(当時)は,受信料の支払い義務を放送法に規定すれば支払い率が上がって増収となり,NHKが業務改革で節約すれば20%程度の受信料の引き下げが可能になると述べた。これに対してNHKは,不祥事による減収のもと,増収効果など総合的な検討が必要で,引き下げを視野に入れた案は9月末までにまとめると表明し,20%の引き下げに応じなかった。この結果,通常国会に提出された放送法改正案には,支払い義務化は盛り込まれなかった。

経営計画の策定作業が進められるなかで,執行部と経営委員会との間で引き下げ額等をめぐって意見の相違があり,経営委員会のなかでは,時間をかけて慎重に検討するべきとの意見も出ていた。しかし執行部は,国会審議の経過や,橋本会長が度々9月末を表明してきたことから視聴者への約束になっているとして議論を進め提案に至った。

NHK 案の経営目標や事業運営の柱:

  • (1) NHKへの信頼度を80%以上に向上させる。放送への満足度や親しみ感,視聴者の期待に対する実現度を,それぞれ向上させる。
  • (2) 信頼できる,多様で質の高い放送を実現し,週間接触者率を80%以上とする。
  • (3) 受信料の支払い者率を77%に向上させる。営業経費率は10%未満に抑制する。
  • (4) 受信料の引き下げは2008年10月から月額50円,口座振替とクレジットカード継続払いは100円とする。割引制度の新設,適用範囲の拡大を行う。
  • (5) 放送サービスでは,世界に通用する番組の制作,報道の強化,若い世代向けの放送の充実,地域からの情報発信力の強化,“ともに生きる”社会の実現をめざす番組の充実,世界に向けた発信力の強化,多様なメディアに向けたサービス展開,を行う。
  • (6) 事業支出を抑制し,スリムな体制のなかで,取材力・制作力へ経営資源をシフトする。
  • (7) 子会社等は34団体を28団体以下とする。
  • (8) 内部統制を構築し,コンプライアンスを徹底する。
  • (9) 地デジ放送が全国であまねく受信できる環境を2011年までに整備するよう努める。
  • (10) 放送・通信融合時代のNHKのあり方について,その役割と機能,財源,保有波や移動体向け配信など事業範囲を検討する。
  • (11) 視聴者の意見の反映を見えるかたちにする。

経営委員会の指摘:

経営委員会が不十分だと指摘したのは以下の項目である。

  • (1) コンプライアンス体制確立について組織改革を含む実効性ある施策。
  • (2) 公共放送としてのNHKの将来ビジョン。
  • (3) 抜本的な構造改革の施策。
  • (4) アーカイブス・オンデマンド等副次収入増加の施策。
  • (5) 国際放送を強化するための施策。
  • (6) 地域放送を充実させるための施策。
  • (7) 受信料の公平な負担を実現するための施策。

さらに受信料の引き下げについて,抜本的改革に取組み,公平負担を実現できれば,視聴者の理解が得られる程度の受信料の引き下げが可能となるはずと指摘した。

奥田良胤