メディアフォーカス

米FCC,アナログ放送終了後の700MHz帯域を来年1月に競売へ

FCC(連邦通信委員会)は8月17日,700MHz無線周波数帯域の競売に関する告知書を公開した。競売は08年1月16日(入札期日は1月28日)に実施することが決まった。地上アナログ放送のデジタル移行に伴って政府に返還される700MHz帯域をどう活用するかについては,足かけ10年にわたって様々な議論が繰り返されてきたが,いよいよ最終局面を迎えることになった。

地上アナログ放送は2009年2月17日に終了することが決まっており,デジタル移行によってこれまでアナログ放送が使っていた14Chから 82Ch(470~884MHz)までの帯域が返還される。特に698~806MHzの帯域は,通称700MHz帯と呼ばれ,電波帯域不足に悩まされてきた携帯電話サービスだけでなく,無線ブロードバンドサービス等での利用も想定されており,関係する様々な企業が関心を示してきた。同競売の正式名称は「オークション73」で,落札総額は200億ドル(約2兆3,000億円)を超えるとの予想もあり,米国の競売史上最高額になる可能性がある。売却金は米国債の償還等に充てられる。

FCCの今回の競売に向けた方針には二つのポイントがある。第一は,700MHz帯の特定帯域(22MHz幅)を落札した企業は,構築したネットワークにすべての端末やアプリケーションとの接続を義務づける,いわゆる「オープン・アクセスルール」が適用される点である。これは公共の財産である電波をより広く自由な競争に活用するためのルールで,落札企業は,携帯電話など特定の端末による利用に限定されない,よりオープンなプラットフォームの提供を求められることになる。第二は「公共安全ブロードバンド周波数帯」(10MHz幅)を落札した企業は,警察や消防など危機管理当局と相互運用のできる無線ブロードバンド網を構築し,関連当局によるアクセスを優先的に提供しつつ,残りの容量については商業利用を認めるという点である。これは9.11同時多発テロやハリケーン「カトリーナ」等の際,緊急時の通信ネットワークインフラの脆弱性が指摘されたことを受け,官民一体となったネットワークを同帯域によって構築することを目指すものである。

今回の競売にはAT&Tやベライゾンなど通信大手はもちろん,ネット検索大手のグーグルも大きな関心を寄せている。アナログ放送に利用されていた700MHz帯は伝送可能距離が長いという特徴があるため,モバイルを用いたワイヤレスブロードバンドサービスを拡大利用する絶好のチャンスと捉えられているためだ。グーグルのE.シュミットCEOはすでに46億ドル(約5,300億円)以上で入札する用意があることを示唆しており,競売金額が大きく釣り上げられる可能性もある。

ヤフーやマイクロソフトなどと同様,グーグルがモバイル・インターネットサービスの分野に強い意欲を持っているのは,この分野の広告市場が急成長すると見られているからだ。ネット検索で優位に立つグーグルがモバイル事業に参入することになれば,既存の通信会社にとって大きな脅威となるだけでなく,今後のアメリカ人のインターネットアクセスの基本スタイルがモバイル機器を用いたワイヤレス接続になるといった大きな変化が生じる可能性があると見る専門家もいる。

700MHz帯がどのような企業によって落札されるのか,そしてFCCが期待する通り,ブロードバンド市場に新しい競争やイノベーションの出現,普及率向上や利用料金低下をもたらすことになるのか,半年後の競売に大きな関心が集まっている。

米倉 律