メディアフォーカス

米ニューズ社がDJ社を買収 注目が集まるマードックの運営

複合メディア大手のニューズ・コーポレーションが,ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)を発行するダウ・ジョーンズ(DJ)を買収することで,7月 31日に両者が合意した。これによって,テレビ・映画・新聞・インターネットなど数多くのメディアを所有するルパート・マードックが影響力をさらに増す一方で,名門経済紙を発行するDJ社は100年以上にわたる単独経営の幕を閉じた。

今回の買収劇には『カネ』と『編集権』という2つのポイントがあった。

買収額は約50億ドル(約6,000億円)。4 ヶ月に及ぶ交渉では,DJ社オーナーのバンクロフト一族内部でも売却か否かで意見が分かれた。ニューズ社が提案した買収額は1株当たり60ドルで,買収提案前の株価水準である30ドル台を大幅に上回る高値だった。200万部と全米2位の発行部数ながら,インターネットの普及で新聞に厳しい状況が続く中での生き残りは難しいと一族の若手オーナー達は売却に積極的だったが,主に年配のオーナー達は,かたくなな姿勢を見せた。結局,交渉時のDJ社の弁護士費用など4,000万ドルもニューズ社が肩代わりすることで,両者は売却に合意した。NYタイムズは,経営に積極的に関与してこなかったバンクロフト家の混乱ぶりを,「マードックの大胆な提案を受けて,これまで顧みることのなかった子どもに初めて目を向けた」と評している。

新聞の制作現場を中心に大きな関心となったのが,編集権の独立だった。マードックは,これまで買収したメディアでも編集方針に介入することで知られている。傘下の衛星テレビ放送が中国に進出する際,中国政府に批判的だった英BBCのTV国際放送を排除したり,中国政府の意に沿わないと見られていた香港のパッテン総督の回顧録をグループ内の出版社から発行するのをやめさせたりした。WSJ編集部内でも懸念が渦巻く中,マードックは米タイム誌のインタビューに対して「WSJをおとしめるために,わざわざ50億ドルを使うとでもいうのか」と反論している。今後,編集権の独立性確保については,社外の有識者による特別委員会を設置して,編集幹部の任免権を委ねることなどで合意した。

76歳のマードックは,新聞,テレビ,ケーブル,衛星放送,映画,インターネット,雑誌,出版などを手がけ,『メディア王』と呼ばれている。インターネット全盛の時代に大新聞の買収に巨額な投資を行う意図について,フィナンシャル・タイムズ紙は,マードックがバンクロフト家に送った手紙を抜粋して「とにもかくにも,新聞が私の原点なのです」と紹介している。しかし,マードックはCNBCに対抗して10月から経済専門チャンネルを始めると発表しており,WSJの様々な経済情報を活用していくと見られる。同時に,米誌のインタビューの中で,WSJが一流経済紙としての現在の地位を保ちつつも,NYタイムズに対抗できるような政治的にも強い影響力をもつ新聞にしたいという考えも示している。

NYポストや英サン紙では大衆路線を押し進め,FOXニュースでは政権寄りの姿勢を示し続ける一方,新しいメディアのMySpaceにも素早く注目したマードックが,経済紙として評価を確立しているWSJを,どう舵取りするか注目が集まる。

柴田 厚