メディアフォーカス

英BBC,視聴者の信頼回復が急務

~相次ぐ不祥事に“不寛容”のアプローチを決意~

イギリスの公共放送BBC会長のマーク・トンプソンは2007年7月18日,「やらせ」「だまし」など番組制作上の不正行為を今後繰り返さないために,“不寛容”のアプローチをとる方針を示し,10項目の対策を発表した。

この3月,BBCの子ども向け老舗番組『ブルー・ピーター』の生放送中に,電話回線の障害から,急きょ偶然隣のスタジオに居合わせた少女に電話をかけさせたことが明らかになった。この事態に対しBBCは,2005年1月以後放送されたテレビとラジオ番組やオンラインサービスのコンテンツで,同様の電話による視聴者参加の懸賞番組(約100万時間)の総点検を行った。その結果,別表のように6本の作品で,深刻な不正行為が確認された。

また,BBCの不祥事はこればかりではない。7月11日に開催した秋の番組記者発表で,目玉のドキュメンタリー番組『女王陛下とのこの1年』(A Year with the Queen)の予告編のなかに,エリザベス女王が訪米前の写真撮影中に怒って部屋を出たという誤った印象を与えるシーンがあり,メディアで大きく報道された。制作したのは,BBCで活躍したベテラン実力者が経営する独立プロダクションのRDFだが,BBCはただちに女王陛下と写真家に対し公式の謝罪を表明した。

こうした「やらせ」をはじめとした不正・不誠実な行為が,視聴者の信頼の喪失につながることは間違いない。トンプソン会長は,「我々は,人々を欺くことを決して行ってはならない。期待を裏切ることに言い訳はない。今後我々は,詐欺行為を規律違反とみなし,懲戒免職とする。BBCの価値と編集基準の遵守は,任意でもなければ,できたらよい,というものでもない。これは絶対的なものだ」と述べ,断固とした姿勢で臨むとし,マーク・バイフォード副会長を編集基準の見直しの責任者に指名したほか,『女王陛下とのこの1年』の誤りがなぜ起きたのか,その原因を究明する第三者調査の開始や,1万6,500人の全職員研修を含む,次のような10項目の対策を内外に明らかにした。

  1. すべての職員と番組関係者に,今回の事件の深刻さを認識させるため,「やらせ」や「だまし」など視聴者に対する不誠実な行為に対し,不寛容のアプローチをとる。編集上の指導者と責任者は,コンプライアンス・システムが機能することに責任を持つ
  2. 7 月18 日深夜から,すべての電話参加番組を一時中断し,懸賞番組が公正に誠実に運用されることを保障するための手段を講じる
  3. 徹底した強制的な研修を開始する。BBC 内のすべてのレベルの全職員が,完了しなければならない
  4. 『女王陛下とのこの1 年』の問題について,第三者調査を委託する。元BBC 理事(テレビジョン総局長)のウィル・ワイヤットが調査の責任にあたり,秋に報告書を出す
  5. 新聞発表やシーズン開始の予告編のような宣伝素材が放送コンテンツの最高水準に見合うようにするため,使用許可の手続きを見直す
  6. RDF への新しい番組制作委託を見合わせる
  7. すべての人が,編集基準と基準違反による結果を必ず理解できるようにするため,職員や外部の両方の基準契約を改定する
  8. さらに調査を行う間,数人の編集リーダーに職場離脱を求める
  9. 5 月に発表した電話をめぐる行動計画を遂行する
  10. ITV,チャンネル4,ファイブやその他の国内放送事業者とともに,研修と基準について業界横断的なアプローチを話し合う

BBCは,イラク報道をめぐる政府との対立から経営幹部の辞任を招いた「ギリガン・ケリー事件」を経験したが,現在はこれに匹敵する危機にあるともみられている。しかし,今回のBBCの不祥事とその対応について,新聞各紙は必ずしも批判的な論調で伝えていない。その背景には,BBCの前経営委員長で現在 ITVの会長を務めるマイケル・グレイドが指摘するように,こうした不祥事の発生には,メディアの市場化と競争,効率化と番組制作者の処遇の劣化,独立プロダクションの成長と委託の増大,新規参入による文化の違いなど,BBCを含めたテレビ業界全般にわたる現状にその原因が潜んでいるという考えがあるからである。通常はBBCに対し批判的なThe Times紙は7月19日の社説で,トンプソン会長を「勇気のある結果を出す行動を示した」と評価し,独立プロダクションの問題に紙面を割いた。一方,The Independent紙は,The Timesと同様に独立プロダクションへの委託の増大に懸念を表明するとともに,「この国にはBBCを共有しているという強い感覚があり,これは受信許可料の問題よりも重要なことだ」とし,「BBCはイギリスにとって,ユニークで貴重な政治的文化的資源であり,世界にとってもそうだ。しかし,完璧であるわけがない。電話参加懸賞番組で明らかになったように,期待にこたえていないときには批判されなければならない。しかし,我々の国民的な公共放送事業者 BBCが提供する価値に賛成の態度をとることに戸惑うことはない」と論じている。

  1. 『コミック・レリーフ』BBC ONE (2007 年3 月16 日放送)
    慈善募金活動を行うテレビ番組。寄付と引き換えに有名人が提供した品物を獲得できる趣向で,視聴者は電話で参加。生放送中,順番待ちの電話回線が切れたため,急きょ制作チームのスタッフが替え玉となって電話。
  2. 『TMi』BBC TWO とCBBC (2006 年9 月16 日放送)
    電話参加の懸賞番組で生放送。一般視聴者ではなく,制作チームのスタッフが電話をして賞金を獲得。
  3. 『スポーツ・レリーフ』 BBC ONE (2006 年7 月15 日放送)
    視聴者電話参加の慈善募金活動番組だが,優勝者は制作チームのスタッフだった。不測の事態を装い計画的に行われた。
  4. 『チルドレン・イン・ニーズ』BBC ONE Scotland (2005 年11 月18 日放送)
    視聴者電話参加の懸賞番組。電話回線のトラブルで,電話参加した視聴者の名前が制作チームに伝わらず,架空の名前が放送中に読み上げられた。
  5. 『リズ・カーショウ番組』BBC 6 Music (2005 年から2006 年にかけて放送)
    ラジオの音楽収録番組にもかかわらず,生の視聴者参加による懸賞番組を装う。06 年12 月に担当者の変更後ただちに取りやめた。
  6. 『ホワイト・レーベル』 BBC World Service (2006 年4 月まで放送)
    ラジオ国際放送の英語サービスの番組で,週に1 回放送。実際には応募がないにもかかわらず,虚偽のCD 獲得者を放送したことが,少なくとも2 回以上あった。

中村美子