メディアフォーカス

台湾,政府予算による番組制作に批判

台湾で,政府寄りの商業テレビ局が政府予算をもとに制作した歴史番組の映像の一部に,全く別の事件の映像が使われていたことが明らかになり,政府予算で番組を制作すること自体への批判が高まっている。この番組は現在野党である国民党が,政権を握っていた1947年に台湾の住民を虐殺した「2.28事件」を扱った歴史ドキュメンタリーで,政府寄りとされる三立テレビが随意契約で制作を請け負った上,自局で放送した。ところが,番組の一部に国民党が上海で共産党関係者とされる人物を処刑している映像が使われていたことが,5月8日に野党系新聞の報道で明らかになった。三立テレビは故意ではないとしながらも「入手した映像資料の確認作業が不十分だった」と陳謝したが,国民党など野党側は一斉に反発,放送メディアの監督・規制にあたるNCC(国家通信放送委員会)に厳しい処分をするよう要求した。

NCCでは5月18日の委員会議で衛星ラジオテレビ法第37条に基づき100万元(約350万円)の罰金を課すと共に,2か月以内にメディアの専門家を招聘(へい)し,社長・副社長を含めニュース報道の倫理規範に関する教育訓練を8時間以上受けるよう求めた。同時にNCCは付帯決議の中で,政府・政党・企業が直接または間接的にニュースを買うことを禁止する法律の制定を急ぐよう検討を求め,各テレビ局に対しても,政府などの委託・賛助などを得ているものは法律制定前でも放送時にそのことを明らかにするよう呼びかけた。

台湾のテレビ界は,ケーブルテレビの普及率が85%に達していることもあって,2,300万人の人口に対しチャンネル数が150もあるなど,恒常的に過当競争の状態となっている。このため各局は政府予算による番組の制作も積極的に手がけているが,今回の事件では,「2.28事件」をより視聴者に印象づけることで政府の期待に応えようと,三立テレビが凄惨な映像に飛びついたのではないかと指摘されており,政府予算によって制作された番組の信用が大きく損なわれてしまったのである。

このため,メディアNGOの中にもNCCと同様,政府予算による番組制作は全廃すべきだとの議論が高まっているが,その一方で政府は自らの政策をPRする義務があり,一概に全廃すべきとは言えないとの意見も存在する。そうした意見が出る背景には,台湾のメディアに対する信頼度が極めて低いことがある。国際的なPR会社が去年行った,日本・中国・インドなどアジアの10か国・地域におけるメディアなどの信頼度調査で,台湾におけるメディアの信頼度はわずか 1%と最低だった。

例えば2003年に起きた新型肺炎(SARS)の際,台湾のある地区での集団感染について,複数のテレビ局が裏づけを取らないまま「地区の水道が SARS汚染」と報じ,あとで誤報と判明するなど,「勇み足」を重ねた前科がある。行政院新聞局では当時,毎日3回各テレビ局の放送時間を5分ずつ「収用」し,SARSの感染者数や今後の見通しなどについて衛生当局が説明する番組を流したが,誤報に辟易(へきえき)した視聴者からの評判は上々だった。メディアが政府ほど信用できないのに,政府予算による番組制作を認めなければ,かえって弊害が大きくなるおそれがあるわけで,台湾メディアの体質改善問題は待ったなしの段階に来ていると言えそうだ。

山田賢一