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「UEFA EURO 2008」ドイツの公共放送がW杯を上回る放送権料を提示

ドイツの公共放送ARDとZDFが, サッカーの欧州選手権大会「UEFA EURO 2008」のドイツ国内向けテレビ放送の権料として,交渉相手のSportfive社に対し,1億1,500万ユーロ(約183億8,620万円)を提示したと,南ドイツ新聞が報じた(2007年4月27日)。

欧州サッカー連盟( 以下UEFA)主催の「EURO 2008」は,2008年6月からオーストリアとスイスで共同開催される。予選を勝ち抜いた16の国と地域が参加する本大会では,合計31試合が行われる。4年に1回の大イベントとして,欧州では,その試合の生中継が「無料で見られるのか,それとも有料チャンネルに加入しないと見られないのか」が,大きな関心を集めている。

サッカー欧州選手権大会の放送権は,1960年の第1回大会から,前回の2004年大会まで,ヨーロッパ放送連合(EBU)がUEFAから獲得してきた。2004年大会の放送権交渉の際,ドイツのキルヒグループ(2002年に経営破綻)が,EBUが提示した約5億ユーロ(1999年12月当時)を上回る金額を提示したのに対し,当時のUEFAは,公共放送機関の連合体であるEBUを選んだ。しかしUEFAは,2008年大会の放送権を,民間企業の Sportfiveに売り渡し(推定入札額6億ユーロ),同社が各国の放送機関と個別に交渉し,その国の国内向け放送権を販売することになった。

Sportfiveとは,RTLグループ,Canal Plusグループそれぞれのスポーツ部門と,フランスのジャン=クロード・ダーモングループの3つが合併して,2001年に発足したスポーツマーケティング会社で,2004年にフランスの投資会社アドベント・インターナショナルに,そして2006年11月にはフランスのメディア企業ラガルデールグループに買収され,現在その傘下にある。本部をハンブルクとパリにおき,サッカーのイタリアのセリエA,スペインの1部リーグ,UEFAチャンピオンズリーグなどの放送権販売の代理店をつとめている。

ARDとZDFが1億1,500万ユーロを提示したのは,全31試合中の27試合をドイツ国内向けにテレビで生放送する権利で,実際の交渉には,両社が共同で設立した関連団体のSportA社があたっている。提示額を試合数の27で割ると1試合あたり425万ユーロ(約6億8,000万円)となる。 ARDとZDFが共同購入した,2006年FIFAワールドカップ・ドイツ大会のドイツ国内向けテレビ放送権は,全64試合中の48試合で1億8,000 万ユーロ,1試合あたり375万ユーロだった。この交渉が妥結すれば,ドイツの公共放送は,1試合あたりでは,自国開催のW杯を上回る金額で「EURO 2008」の放送権を獲得することになる。

ドイツでは,サッカーのFIFA W杯と欧州選手権大会については,開幕試合,ドイツ代表チームが参加する試合,準決勝と決勝の試合に関し,有料チャンネルによる独占生放送を規制する法律がある。社会的関心の高いこれらの試合を有料放送する場合には,無料のテレビチャンネルでも放送していなければならない。有料放送事業者にとっては,完全な独占生放送でなければ,視聴契約者の新規獲得の起爆剤にはできないため,現在のところPremiereやArenaは「EURO 2008」の放送権交渉を行っておらず,公共放送と有料衛星放送事業者の競合は起きていない。

伊藤 文